エアバスA三八〇
エアバスA三八〇には、上下二本の搭乗用ブリッジが架かっている。
ここ数ヶ月、仕事に国外に出ることが多い。四月、五月の八週間に、これで七回目の「国外脱出」。最近は、ユーロスターができて、ベルギーやフランスなど近場の国は、列車で行けるのでかなり楽になったけれど、やっぱり、出張は疲れる。今日もまだ、一昨日までのドイツ出張の疲れが完全に取れていない。
空港に着いたのが八時半。搭乗口が開くのが十時半。まだまだ時間があるので、絵葉書を書いて過ごす。ロンドンの絵葉書を、姪の四歳の娘に書いた。僕はかつて、自分の娘ミドリと、セバスティアンというドイツの男の子と、ミリアムというドイツの女の子に、旅の先々で絵葉書を書いた。彼らが成年して再会したとき、彼らが僕からの絵葉書を、宝物のように取っておいてくれたのには感激した。それで今回も、姪の娘に、何通か絵葉書を出そうと思っていた。その第一弾は英国から。
ロンドン・ヒースローからシンガポールまでは、シンガポール航空のアバスのA三八〇に乗る。A三八〇に乗るのは初めて。世界最大の旅客機。八年前に就航、これまでずっと乗ってみたかったのに、その機会が訪れるまでに八年が経過していた。いまさらA三八〇でもないんだけど。麺類好きであると同時に、乗り物好きの僕にとって、何でも初めて乗るのは嬉しいもの。
二〇〇七年、このシンガポール航空で最初に就航したA三八〇は、総二階建て(ヒノキ造りじゃないけど)座席のレイアウト次第だが、最高五百五十人の乗客を一度に運べる。僕たちの乗った機体は四百七十一人乗りのレイアウトなんだって。この飛行機の着くことのできるゲートは限られている。だって、ターミナルビルから一階のローアーデッキと、二階のアッパーデッキに、二本のブリッジを同時に架けなければならないから。ともかく、ぼくと妻は、ロンドン午前十一時二十五分ロンドン発の巨大機の、二階の一番後ろに席を取った。キャビンアテンダントのお姉さんは、髪をアップにし、身体にピッタリ張り付いた、民族衣装風のユニフォームを着ている。セクシ〜。
シンガポール、チャンギー空港着陸前に激しい雨音が飛行機を打った。窓際の席でないので外は見えないが、飛行機は激しい雨の中を、猛烈な水しぶきを飛ばしながら着陸したみたい。ロンドンからシンガポールまでは、十三時間半の旅。おそらくヒースローから出発する飛行機が、無着陸で到達する一番遠い場所のひとつではなかろうか。僕の過ごし方は至って簡単。「睡眠薬を飲んでひたすら眠る。」飛び立って最初の食事に後、睡眠薬を半錠飲み、その勢いでで眠ってしまう。気がついたら六時間後だったので、もう半分飲む。次に気がついたのは着陸の二時間前だった。チャンギー空港はこれまで何度も乗換えで利用している。ホールの中に椰子の木があるなど南国情緒溢れる空港。でも、空港から外に出るのは、十年ぶりくらいかな。荷物取り場に来るが、コンベアがなかなか廻らない。雷雨の為、作業員が雷に打たれるといけないので、外での作業を見合わせているというアナウンスが入る。雨が小止みになると共にコンベアは動き出し、妻と僕は荷物を取って、タクシーに乗り、息子の住む、ケッペル・ベイに向かった。
建物の中に熱帯植物のあるチャンギー空港。僕の好きな空港のひとつ。