タリバーン運転手
僕は面食いじゃないけど、麺喰いだ。
「アジアの麺を究める!」
僕はつぶやいた。はっきり言わせてもらおう。
「僕は麺類が好きだ。」
別にわざわざ宣言することもないよね。でも、僕は、朝うどん、昼ラーメン、夜にスパゲティーでも全〜然〜大丈夫。翌日は、蕎麦に焼きソバ、タリアテッレでも平気。そんな人間なの。今回、シンガポールとタイというアジアの国を訪れることになり、「色々な場所で、色々な麺類を食べる」ことを、旅の目標にした。
「さあ、力一杯麺類に挑戦するぜ。」
と意気込んで、僕は五月二十七日の朝、妻と共に家を出た。
僕たちの住むハートフォードシャーから、ヒースロー空港まで乗せてくれたのはアフガニスタン生まれタクシー運転手。彼は何と「タリバーン」の信奉者だった。
「やめてよ、朝からややこしい。」
彼は、タリバーン政権で、「女性が、教育も受けることができず、職にも就くことができず、虐げられている。」というのはデマだ。タリバーン政権でも、女性には「それなりの」地位と、将来への可能性が「イスラムの教えに従って」与えられているという。
「そんなにタリバーンが好きなら、彼らと仲良くやればええやん。どうして英国に移住したんよ。」
と僕が言うと、
「タリバーンから逃げてきたのではなく、戦争から逃げてきたんだ。」
彼はそう言った。確かに、王政からのクーデーター、ソ連の侵攻と共産主義化、タリバーンの出現、「九・十一事件」をきっかけとした西側からの攻撃、アフガニスタンでは二十年以上戦争が続いている。ヘヘヘ、何故、僕がアフガニスタンの近代史について知っているのか。ネタ本があるのだ。カレド・ホセイニという、亡命アフガニスタン人の作家の小説が好きで、彼の作品をよく読んでいたから。運転手もカレド・ホセイニは知っていたが、
「あれは米国のプロバガンダだ。」
と言い切った。
「どうして、ホリデーに旅立つ朝に、アフガニスタンの政治情勢について話さないかんのよ。」
運転手の毒気に当てられた僕たちは、一時間十分の所要時間を長いとも感じず、ロンドン・ヒースロー空港、第二ターミナルに着いた。僕はタクシーの運転手に話しかけられ易い「タチ」というか、何故か、いつもしみじみと彼らの話を聞いてしまう。
ヒースロー空港、第二ターミナルに来るのもここ六日間で四回目。日曜日の朝はシンガポールに帰る息子をここまで送ってきて、火曜日はここから飛び立ってフランクフルトへ出張。水曜日の夜にここへ戻ってきて、そして今日、金曜日の朝またここに立っている。
ヒースロー空港で「ハロッズ」の熊さんとツーショット。