アイノ・トロセル
Aino Trosell
(1949年〜)
マルング出身、作家
正直、「おばちゃんが書いた推理小説」という印象を受けた。
アイノ・トロセルは一九四九年、スウェーデンのマルングに森林労働者の娘として生まれている。彼女が六歳のとき両親が離婚、その後は、母親に育てられたという。一九七八年に最初の作品を発表している。従って、彼女は作家としての活動歴が四十年近い、かなり古い時代の人に属していると言える。最初の二十年は一貫して社会的な小説を書いていた。作家として最初に注目された小説「Socialsvängen(社会的な転向)」でデビューしたとき、彼女自身は造船所の労働者として働いていた。 最終的に、彼女は歴史や犯罪小説を含む二十冊以上の社会的な本を書いた。多作とは言えない。二〇〇〇年近くになって初めて、彼女は犯罪小説を手掛ける。そして、第一作である「Om hjärtat ännu slår(心臓の打つ限り)」は、二〇〇〇年のスウェーデン犯罪小作家アカデミー賞を受けている。(1)
この「心臓の打つ限り」のストーリーの大部分は、一人称「私」で、中年の女性、シヴの視点から語られる。イェーテボリに住んで、看護師として働く傍ら、平凡ではあるが幸せな生活を送っていると思っていた彼女は、夫の不倫を知り、家を出る決意を固め、亡くなった伯母インゲボルグの家を継いで、スウェーデンの北部にある村で暮らすことになる。彼女の語りの合間に、殺人の描写が挿入されている。一見平凡に思われるシヴの日常生活の喜怒哀楽に満ちた生活と、残忍な殺人事件が、最後に関係を持つという構成である。その殺人に、ネオナチ、反ユダヤ主義に関連していることは、殺された人物、手口から容易に想像できる。(2)
この作品を読んで感じたこと、それは「親切な人間」は世の中にいるが、「親切過ぎる人間」は存在しないということである。「親切過ぎる」人間には、必ず何か魂胆があるものだ、ということ。半ば衝動的に村へ引っ越してきたシヴであるが、職もなく、金もなく、困り果てる。村に来たことを後悔し始める。そんな時、彼女は「親切な人々」によって、助らえる。しかし、その中にひとり「親切過ぎる人物」がいる。その人物に、彼女は利用されることになる。
その「親切過ぎる人物」が、犯罪と関係していることは、物語の半ばから、これも容易に想像できる。そう言う意味では、「犯人」はもう半ばで検討がつき、犯人捜しの面白さ、どんでん返しということはこの物語にはない。
女性作家によって、女性の視点から書かれたこの作品、男性が読むと少し、と言うか、かなりまどろっこしい。女性ならではの興味が饒舌に書き並べられており、展開の遅さに少しイライラする。このストーリーで三百八十ページというのは長すぎる気がする。主人公のシヴは年齢的にも、父親を知らないで母親に育てられたという境遇も。作家のトロッセル自身と似ている。
永年の社会的な作家活動を、アカデミー賞を与えることにより表彰したという印象を拭えない。
作品リスト:
l Socialsvängen(社会的な転向)1978年
l Hjärtstocken(オール)1979年
l Samnanger(サムナンゲル)1983年
l Facklorna(たいまつ)1985年
l Kärleksbrottet(恋愛犯罪)1990年
l Offshore(オフショア)1991年
l Röda lacket (赤漆)1994年
l Under Södra korset(南十字星の下で)1994年
l Jäntungen(馬車競馬)1994年
l I Vintergatan (天の川の中で)1997年
l På en öde ö i havet(海の無人島にて)1998年
l Ytspänning(表面張力)1999年
l Om hjärtat ännu slår(心臓の打つ限り)2000年
l Isbränna och andra berättelser(氷山と他の物語)2000年
l Lita på Mary(マリーを信じる)2000年
l Se dem inte i ögonen(目を見るな)2002年
l Tvångströjan(拘禁衣)2004年
l En gränslös kärlekshistoria(限りないラブストーリー)2005年
l Järngreppet(鉄のグリップ)2008年
l Hjärtblad(子葉)2010年
l Krimineller(犯罪者)2012年
l En egen strand (プライベートビーチ)2013年
l Min grav är din. Krimineller II (私の墓はあなたのもの、犯罪者パート2)2014年
l Helmers vals(エルメスの偽物)2016年
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(1) ウィキペディア、スウェーデン語版、「Aino Trossel」の項。
(2) Solange das Herz noch schlägt, Bastei Lübbe Taschenbuch, Berlin, Germany. 2006