最後の夜のアクシデント
バスクリンの入ったお風呂のようなサルディニアの海の色。
明日は、皆がサルディニアを発って、それぞれの国に向かうという前夜、僕と妻は台所に立っていた。僕は、シンガポール風チキンライスを作り、妻は、野菜たっぷりスペイン風オムレツを作っていた。
「シンガポールから来た人に、チキンライスを作ってどないすんねん。」
という意見もあるかも知れないが、その日、冷蔵庫に残った食材を全て片付けるため、僕と妻は、それなりのメニューを考えていた。
「あれれ・・・」
ガスコンロでは、四つの鍋が同時に調理できたが、その四つが一斉に消えてしまった。一瞬、何が起こったのか分からない。
「おそらく、この家はプロパンガスを使っていて、そのボンベが空になったんや。」
と、僕は推測した。そうなると、次は、そのボンベ捜しになる。庭に出て、納屋や、物置の扉を片っ端から開けていく。二十分ほどあちこち探して、ようやく、一つの物置の中にボンベを発見。幸い、現在、ホースがつながれているボンベの横には、もう一本予備らしきものが立っていた。持ち上げてみると重い。空ではない。
「次は、どうやって交換するかや。」
僕は考え込む。プロパンガスの交換をやったことはあった。金沢で大学に行き始めたとき、下宿のおばさんに頼まれて。何度かやった。当時、金沢市内にはまだ都市ガスが通っていなくて、プロパンを使っていたのだった。しかし、その経験は、もう四十年以上前のもの。それでも、必死でも思い出そうとする。空になったボンベから、管を外し、新しいボンベに付け替えようとする。しかし、上手く行かない。
「そうや!正に逆転の発想や。」
僕は、ネジを逆向けに締めてみた。安全性の理由のせいか、ボンベに接続されるボルトとナットは、全て普通とは逆の方向、「逆ネジ」になっていたのだ。
「お〜い、ガス点けてみてくれ。」
僕は外からダイニングにいる娘に叫ぶ。
「パパ、点いたよ!」
心からホッとした。ガスが止まってから三十分後、料理は再開された。八時過ぎに料理が出来上がって、皆で「最後の晩餐」。しかし、エンゾーは、昨夜遅かったこともあって、もうとっくに眠っていた。
僕たちの「壮大な実験」も、ひとまず、成功裏に終わりを告げようとしていた。世の中には、血を分けた兄弟でも、互いに仲の悪い人たちがいる。幸いにして、僕の子供たちは、この一週間、助け合って、お互いを気遣い合って暮らしていた。
「みんなありがとう!」
このボート、免許がなくても運転できる。じゃあ、僕もやってみる。