エピローグ
来年も、また地中海に来られるといいな。えっ、お尻を見に?
「じゃあ、今度はクリスマスにロンドンでね。」
八月三十一日の午前七時半、僕たちロンドン組は、ワタル一家に別れを告げて、車でカリアリ空港に向かった。ワタル一家は、三十分後に、島の北部にあるオルビア空港に向かって出発することになっている。僕たちは、三時間の飛行機の旅だが、シンガポール組は、ドバイでの乗り換えも含めて、二十四時間かけて家に辿り着くことになる。
ワタル一家は、今年のクリスマスに、ゾーイの父母と一緒に、ロンドンに来ることになっている。エンゾーとしばらく会えなくなるのは寂しいが、また四か月後に会えると思うと楽しみではある。
「おサルがいるから、サルディニア。」
エンゾーを抱っこしながら、よくそんなことを言っていたが、次に会う時には、覚えていないだろうな。クリスマスには、ゾーイの両親も英国に来ることになっている。ロンドンを案内することになるだろう。
「それまでに、中国語をもっと上達しておかないと。」
サルディニアに来る数週間前、僕は中国語検定の五級に合格していた。これで、試験レベルでは、一年間の北京留学経験のあるワタルに、追いついたことになる。しかし、試験でどれだけ良い点数を取っても、実用には程遠いことを、自分が一番良く知っている。
ドロドロで傷だらけの車を空港で返す。一番高い保険に入っているので、気兼ねなく返せる。飛行機は、十時半にカリアリ空港を離陸、ロンドン・スタンステッドに向かう。
「明日から九月か。」
飛行機の中で僕はそうつぶやく。二週間後に学校の授業が始まる。今期から「試験クラス」、これまでよりもっと年上の、新しい生徒を受け持つことになっている。新しい子供たちと出会うのは楽しみ。でも、明日からまた授業の準備に追われることに。
「車も買わんならん。」
サルディニアにいる間に、ロンドン全域で「大気汚染税」が施行された。ディーゼルの車は、実質的にもうロンドン市内は走れなくなる。今のディーゼルの車も買い替えないと。
「新しいテナントさんにも挨拶に行かなあかん。」
二日前に、貸しているアパートに新しい人が入った。一度会わないと。阪神タイガースの優勝も近いし、何か行事も企画したい・・・色々な予定が頭をよぎる。
「ま、さんざん遊んだから、その後忙しいのはしゃあない。」
自分に言い聞かせる。
「September
そしてあなたは September 秋に変わった〜
夏の陽射しが弱まるように 心に翳(かげ)がさした〜」
(竹内まりや 「September」)
明日から九月。でも「あなたが秋に変る」って、一体どうなるんだろう。
<了>
秋の気配のするサルディニアを去る。ロンドンの天気はどうなんだろう。