イタリアでの外食
さすがにこの強風の中、バルコニーで食事をしようという、酔狂な人はいない。
「わあ、やっと来た〜。」
思わず、エンゾーの十八番を取ってしまった。メインの「子豚の丸焼き」が供されたのは、食事を始めてから三時間後。時計は午後十時を指していた。ボチボチ、エンゾーを寝かせないといけないワタルとゾーイは、少し前からヤキモキしている。
「イタリアの食事は、時間が掛かるんよねえ。」
昔、僕は数カ月の間、イタリアで働いていたことがあった。イタリアの会社に、自分たちの作ったコンピューターシステムを、導入しに行っていたのだ。イタリアで働いていた頃、レストランでの食事が終わったら、いつも真夜中だった。それを思い出す。基本的に、「お昼寝」、「シエスタ」の習慣のある国の夕食は遅い。このレストランは七時から開いていたからまだ早い方。九時にならないと開かない、なんていうレストランもあった。
さて、子豚の丸焼きのお味は・・・う〜ん、
「子豚の丸焼きってのは、どちらかと言うと、肉の味よりも、皮の触感を楽しむものかな。」
子豚自体、そんなに肉が付いているわけでもないし、食べる所は余りない。でも、時間を掛けてコンガリ焼かれた、塩味の皮は美味しかった。
僕の日本語の生徒さんの、リナルドさん、ステファニーさんも含めて、イタリア人は、結構イタリア訛りの英語を話す。英語を聞いただけで、イタリア人だと分かるくらい。でも、そのレストランのウェートレスのお姉さんの英語、ほぼ完璧。僕より上手いかも。
「どこから来はったん?」
と尋ねると、マダガスカルからとのこと。色々な国から来た人たちが、色々な国で働いているものだ。
真剣に、エンゾーを寝かせなければいけない時間になったので、デザートは「お持ち帰り」にして、店を出る。高い所にあるだけに、見晴らしが良い場所。風は相変わらず強いが、空気はあくまで澄んでいる。バルコニーから夜空を見ると、天の川がはっきりと見える。
「こんなにきれいな銀河を見るのも、久しぶりや。」
と感激する。帰り道、街灯もない真っ暗な山道を、僕たちはゆっくりゆっくり降りて行った。
翌日、七日目は、朝からボートに乗りに行く予定になっていた。しかし、僕は、何となく体調が優れないので、別荘に残ることにした。食中毒かも知れない。昨日の昼食に、カリアリの市場で買って来た、というか、ゾーイが「おまけ」に付けさせたカニを焼いた。誰も食べないので、僕が一人で食べた。多分それに当たったのかも。
朝八時半ごろに、他のメンバーは車に乗って出て行った。僕が一人で別荘に残る。僕は、時間がなくて、なかなか読み進むことが出来なかった本を、リビングのソファに寝転がって読んでいた。
「たまのお休みやもん。怠惰な時間も必要やん。」
「おまかせメニュー」しかないレストラン。お客さんは、ほぼ全員が外国人だった。