子豚の丸焼き

 

山と海のコンビネーションも悪くない。

 

「本当にこの向こうにレストランがあるの?」

何となく、懐疑的になる。しかし、ゾーイの運転するフォルクスワーゲン・ゴルフは、モウモウと砂埃を立てながら、十数メートル先を進んでいる。僕たちは、二台の車で、ワタルとゾーイが予約したレストランに向かっていた。スーパーマーケットのある村の少し向こうで、本道から未舗装の道に入る。その後は、ひたすらでこぼこの山道を登っていく。辺りは、サボテンの生えた岩山があるのみ。

「あれ、かな。」

前方の山の上に、オレンジ色の建物が見えた。そこまで、まだ十分以上かかった。車を駐車場に停め、そこから更に坂道を二百メートルくらい歩く。バルコニーをぐるりと回って玄関の前に立つ。バルコニーにはテーブルが並んでいるが、今日は風が強いので、外で食べることは無理みたい。

 実際、今日は風が強かった。午前中、これまで行ったことのないビーチに行った。そこは、これまで行ったビーチの中でも、特に砂が繊細で白かった。白い砂と青い空と海のコントラストが美しい。

「この海、バスクリンを入れたお風呂みたいやね。」

と妻に言う。砂浜の背後にそびえる岩山もいい雰囲気を醸し出している。しかし、強風で、砂が飛ばされ、常に砂粒が顔や身体に当たった。そして、海に入ると、キリッとするほど、冷たかった。

 さて、夕方の、山の上のレストランに戻る。レストランの入り口の横に炉があった。そこには薪で火が炊かれており、その横に串に刺された子豚が吊るされていた。火と子豚の間には、一メートル近い距離がある。子豚は、まさに「遠火」で焼かれていた。

「ここのレストランはメニューがないの。全て『おまかせ』なのよ。」

とゾーイが言った。彼女とは普段英語で話しているが、「おまかせ」だけは日本語だった。「おまかせ」と言う言葉、少なくともシンガポールでは、市民権を獲得しつつあるらしい。

「それと、ワインは『飲み放題』だから。」

とゾーイ。また出た、世界に通じる日本語。

 レストランに着いたのは、七時前。七時ごろから、プリモ(前菜)が出される。プロシュート・メローネ(生ハムメロン)、キーシュ、豚のレバーの煮物、各種キノコの炒め物、等々。

「ペース配分を守らんと、メインの来る頃には腹いっぱいやな。」

と自戒する。食事と一緒に飲むのは、ピッチャーに入った、サルディニア独特の、ちょっとワイルドな味覚の赤ワイン。料理もワインも味が濃いなと思っていたら、セグンド(二番目)にパスタが来た。サルディニア特産の、蚕の繭のようなパスタと、ラビオリ。パスタは、トマトソースだけのあっさりした味付け。真似をしてみたい。

 

じっくりと焼かれている子豚。食卓に出たのはこの三時間後だった。

 

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