ベストシーズンとは
人が多いって言ってもこんなもの。日本の海岸に比べると何と空いていることか。
「ぬる〜。」
海の水は、温水プールのように温かかった。その日の午後、エンゾーが昼寝から目覚めた後、僕たちは、ソラナスの街にあるビーチに行った。駐車場はギッシリ。何とか車を停め、二張りのパラソルを広げて砂浜に陣取る。天気の良い暑い日の午後、砂浜は大勢の人でにぎわっていた。白い海岸に、翡翠色の海が美しい。水も、砂浜も、あくまで清潔で、ゴミなんか全然ない。
五月にギリシアのコルフ島に行ったときにも、僕たちは海に入った。入れなくはないが、勇気が要った。海の水は冷たく、十分も浸かっていると、身体が冷えてきた。今日はそのような心配はない。風呂の浸かっている気分。しかし、五月のコルフ島は、暑くもなく寒くもなく、実に快適な気候だった。今回は、かなり暑い。海に入るのに全然「勇気」なんて必要ない。
「外が適温で海が冷たいか、外が暑くて海が適温か、どっちがいいかな。」
と僕は妻に言った。
「地中海の島を訪れるベストシーズンは?」
これはなかなか難しい問題である。
ギリシアに行ったとき、海岸で日光浴をしている人は、ほとんどギリシア人ではなく、他のヨーロッパ諸国からのホリデー客だった。サルディニアのビーチで、他の人たちが喋っている言葉を聞いていると、イタリア語が圧倒的。サルディニアは、イタリア人にも人気のある保養地であることが分かる。
エンゾーが波打ち際で遊んでいる。子供が砂浜でやること。ひとつしかない。
「麻雀?」
まさか。砂の城作りである。妻が相手をして、バケツに砂を入れて、じょうろで水を加え、プリンのように逆さにして、砂の城を作ってやっている。バケツやじょうろ、小さなスコップは、別荘の備品として納屋に入っていた。バケツを持上げ、砂の塔ができるたびに、
「できた〜!」
と言って、エンゾーは喜んでいる。
初日に、息子が、
「エンゾーには、できるだけ日本語で話してね。」
と言ってきた。孫は中国人の母と、日本人の父を持ち、英語しか話さないフィリピン人のナニーに育てられた。おそらく、三つの言葉を理解する(可能性がある)。
「それで、お孫さんとは、何語で話したの?」
と帰ってから、ほぼ全員に尋ねられた。僕と妻は、彼に対して常に日本語を使った。息子も、せめて僕たちと一緒にいるときだけでも日本語の刺激を与えようと、日本語を使うよう頼んできたのだ。「できた〜」が言えて、上出来上出来。
砂の城作りは、時代と場所を越えた、砂浜での遊びの定番。何時、何処でやっても楽しい。