無限の時間

 

スプリンクラーが動いている間、エンゾーと一時間くらい遊べた。

 

明け方、どこかで子供が泣いている。夢なのか。目を開ける。隣の部屋のエンゾーの声だった。

「子供の声で目を覚ますのも久しぶりやな。」

七時ごろ、リビングに行くと、エンゾーがソファで、哺乳瓶からミルクを飲んでいた。窓から外を見ると、庭の各所に仕込まれたスプリンクラーから、水が噴き出している。

「そうやったんか。」

一人で感心する。別荘の庭には、色々な植物が植えられている。しかし、この高温と乾燥、水をやらないと枯れてしまう。しかし、別荘を借りている客に水撒きをさせるわけにはいかないし。それで、庭の各所にスプリンクラーが仕掛けられ、午前七時に一斉に水を噴き出すように、セットされていたのだ。

 エンゾーを連れて庭に出てみる。彼は、スプリンクラーに興味を示す。スプリンクラーの向きが変わって、自分の方に水が来たとき、キャッキャッと言って逃げている。

「来た〜!」

と言うと、真似をする。それから、九時頃まで、庭でエンゾーと一緒に居た。

小さな子供は、延々と同じことを繰り返す。それにとことん付き合う覚悟ができていないと、子供とは遊べないと思う。小さな子供には、無限の時間があるのだ。しかし、歳を取って来ると、自分に残された時間が少なくなってきたことに、否応なく気付くことになる。そして、無駄に時間を使いたくないと思うようになる。エンゾーと一緒に居ると、自分の前に無限の時間があると感じていた昔の自分を思い出し、懐かしくなる。

「今日の夜はバーベキューをしよう。」

とワタル。ゾーイの調査によると、五キロほど離れた町に、魚屋があるという。午前九時過ぎから、ワタル、ゾーイ、エンゾーと僕で、車で魚屋に出掛けた。魚屋は、地元のスーパーマーケットの向かい側にあった。僕は魚の目利きが出来るが、並べられている魚はどれも新鮮そう。刺身にもできそう。大きなロブスターがまだ動いていた。また、ムール貝、アサリなども、すごい量が、信じられない低価格で売られている。エンゾーはそれらを、興味深そうに見ている。昨日のレストランでもそうだったが、魚と言うのは、バラエティーがあり、見ていて飽きない。

 バーベキュー用の、魚、エビを買った後、向かいのスーパーにも行ってみる。いかにも、「田舎のスーパー」と言った風情で、いい感じ。蚊対策に、スプレー、蚊取り線香などを買い込む。驚いたのは、売っている鶏肉が、黄色っぽい色をしていたこと。建物中で育てられた鶏は肉がピンク色をしているが、屋外で育てられ、日光に当たっている鶏、いわゆる「フリーレンジ」は、黄色っぽいというか、ちょっと褐色に近い色をしている。その店の鶏肉は、正にそんな色をしていた。チーズやハムも品揃えが多くて、目移りがしてしまう。

 

外で育てられた鶏は、黄色っぽい色をしている。これが美味しい鶏の見分け方。

 

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