国立公園で
最後の最後にやっと見ることが出来たゾウ。「ゾウだぞう!」
「ゾウだ!」
とガイドのエマヌエルさんが叫ぶ。
「どこどこ?」
妻と僕は身を乗り出す。
「あそこの辺り。」
エマヌエルさんが木の繁る方向を指差すが、それらしきものは見えない。そのとき、道の左側にゾウが出現した。一心に木の葉を長い鼻でしごいて口に入れている。
「やったあ。ゾウに会えた!」
妻と僕は喜んで車の後部座席でピョンピョンと跳ねた。朝の七時にロッジを出てから五時間、そろそろ僕たちの「サファリ」も終わりに近づいている。そこまで、他の色々な動物は見たが、ゾウにはお目にかかれず、僕と妻はほとんど諦めていたところだった。このアカゲラ国立公園で、最も出会いにくい動物はヒョウとライオン、サイ。その次はゾウだという。エマヌエルさんによると、国立公園を五回訪れて、一回もゾウに出会ったことのない人もいるという。僕たちと同じロッジに泊まっていた、ベルギー人の夫婦を乗せた車も、前に停まってゾウを観察している。
「あ、後ろから来た!」
エマヌエルさんが叫ぶ。振り返ると、左側にいるのと比べ物にならないほどの巨大な像がこちらへ向かって走ってきている。
「まずい。」
エマヌエルさんは前に停まっている車を発進させ、自分も大急ぎで車をスタートさせた。もう一度後ろを振り返ると、ゾウの姿は消えていた。
「ゾウなった?」
妻に聞くと、
「また藪の中に入って行ったわ。」
とのこと。
「ゾウって人間を襲うことがあるんですか?」
とエマヌエルさんに聞く。
「滅多にないけど、昔フランス人の乗っていた車が上下逆にひっくり返されたことがある。ゾウにも温和なやつと、乱暴なやつがいるからね。」
とエマヌエルさん。彼は車をバックさせ、それから十分ほど僕たちは、十メートルほど離れた場所にいるゾウを観察していた。
僕たちがアカゲラ国立公園に入ったのは前日の午前十時半頃である。この国立公園はルワンダの東部にあり、面積は千二百平方キロメートル。僕の住んでいた京都市が約八百平方キロメートルなのでその一倍半の広さ。朝八時に首都キガリをエマヌエルさんの運転で出発し、およそ二時間半のドライブの後、僕たちは国立公園の入り口に着いた。ゲートに
「ここからは、車から降りてはいけません。」
という注意書きが書いてある。当然だよね。ライオンなんかが傍にいるかも知れないんだから。
国立公園には黄色い花が咲き乱れていた。湖の向こう岸はタンザニア、携帯にタンザニアの電波が入った。