究極の手作業
ルワンダの子供たちは、シャイだけど好奇心の塊で、とにかく可愛いのだ。
分離された果肉の方は、コーヒーの木の肥料として使われるとのこと。その後は気の遠くなるような手作業が続く。三十人くらいの女性が、豆を一個一個丹念にチェックし、品質の悪いもの、割れているものなどを選り分けるのである。
「どこかで見たぞ、そうそう、ゴールドラッシュのとき、川の底の砂をすくって、砂と金を選り分ける作業に似ている。」
僕はつぶやいた。
選別の終わった豆は、左側の斜面にある乾燥エリアに運ばれ、天日で二十日ほど干される。豆を板の上に満遍なく広げ、カバーをかけ、石の重しを載せている女性が二十人ほどいる。ともかく、いくら労働力が豊富で安いルワンダとは言え、コーヒーは、まさに手作業、人海戦術で、収穫、加工されているのであった。
僕にはまだ一つ疑問が会った。乾燥されている豆は、ベージュ色でのっぺりしている。僕の知っている、真ん中に切れ目の入ったコーヒー豆と違っている。アロイスさんに尋ねると、乾燥後、種の殻をむき、中にある核を取り出す作業があるという。僕たちが知っているコーヒー豆は、実の中の種の、そのまた中の核の部分だったのである。ここで生産されたコーヒーは「フイエ・マウンテン・コーヒー」としてヨーロッパや日本に輸出されている。輸出用に回されるのは最も高品質のものだけで、生産量の僅か一割程度だという。残りは近隣諸国か、国内消費に回されるということだった。
コーヒーが地元の人々にとって、いかに大切な物であるかを知る良い機会があった。アロイスが説明をしているとき、誤って数粒の豆を草むらのなかに落とした。
「わあ、馬鹿なことをやっちゃった。」
そう言って、彼は落ちた豆を一粒残らず拾い上げようとした。深い草の中に落ちているので、見つけるのは結構難しいが、彼はそれをやった。片や、何百万、何千万という豆が目の前にあるのに、彼は数粒さえ粗末にしなかった。
「偉い!」
山を降りる。途中に、民家の前を通る。たいていは子供たちが遊んでいた。僕たちが通ると、珍しそうにこちらを見つめる。その表情が可愛くて、思わず微笑んで手を振ってしまう。手をつなごうと言って、一緒に付いて来る小さな子もいる。僕はその子供たちを集めて、記念写真を撮った。今回ルワンダで撮った写真の中でも、大切にしたいものだ。
午後五時に道路沿いにある事務所に戻る。時々止まって説明を受けていたとは言え、結構急勾配のコーヒー山の中を、三時間近く歩き回ったことになる。結構足にきていた。僕たちが自分で煎った豆を、アロイスさんが真空パックして、お土産にくれた。
「ご苦労さま。」
ということで、事務員のエレンさんが、また熱いコーヒーが出してくれる。でも、もう夕方の五時過ぎ、カフェインに対して感受性の強い僕は、夜眠れなくなるといけないので、一口飲んだだけ。妻と僕とGさんは、アロイスに礼を言い、一緒に記念写真を撮り、コーヒー農場を後にした。
究極の手作業で、コーヒー豆の選別をする女性たち。