カウガール

 

ドラーヒェンフェルスの廃墟にて。兵(つわもの)どもの夢の跡。

 

四時ごろにマンフレッドが僕をホテルまで送ってくれた。最初は、彼らの住むエギディエンベルクの村にあるホテルに泊まる予定だった。しかし、その日は「キルメス」、つまり、移動遊園地が村に来ており、ホテルはそれの行われる広場に面している。

「遅くまでドンチャンやるので、モトが寝られないといけないから。」

との配慮で、僕の宿は四キロほど離れた隣村のホテルになっていた。そのホテルに入り、ビールを一本飲む。朝も早かったのでベッドに横になり、少しウトウトする。

六時十五分前に、マンフレッドがまた迎えに来てくれるという。ホテルの外で待っていると、マンフレッドの銀色のアウディが現れた。助手席に乗り込もうとすると、後部座席に奥さんのクリスティーネの他に、もうひとり誰かが座っている。見ると、二十代の若いお姉さん。マンフレッドの上の娘さんであるユリアーネだった。話しを聞くと、彼女はここ一年間、英国はウォルバーハンプトン大学の修士課程に通っていて、最近ドイツに戻ったところだという。

「今日、やっと修士論文を書き上げたの。」

とユリアーネ。

「それはめでたい。」

彼女はホッとした表情である。下の娘さんのフレデリカは、その日遅くウィーンから戻ってくるとのことだった。フレデリカは十月からウィーンで大学に通うことになっており、その履修登録と下宿探しのために数日間ウィーンにいたのだという。デュッセルドルフ空港に着くので、後程ユリアーネが車で迎えにいくとのこと。

彼らの住む村にある、イタリア料理店で食事をする。ユリアーネは職探し中だが、働くとしたら、英国かカナダがいいという。英国の大学院に行っていたことは知っていたが。

「どうしてカナダ?」

と聞いてみる。

「ワーキングホリデーでカナダに住んでいたことがあるの。」

と言う。何をしていたのかと尋ねると、彼女の答えは、

「カウガール。」

「・・・」

一瞬、何のことか分からず、言葉に詰まる。次の瞬間「カウボーイ」の女性版であることが分かった。牧場で、牛の世話をしていたという。

「お父さんが心配して、わざわざ最初付いてきてくれたのよ。」

とユリアーネは言った。マンフレッドが言う。

「とんでもない田舎でさ、泊まった家にネズミ捕りがあったけど、全部ネズミが入っていたんだよな。」

「ゲゲ〜。」

とネズミの大嫌いな僕。でも、ユリアーネはそこが気に入って、また行ってみたいという。

 

ワイン山には収穫を待つブドウがたわわに実っている。

 

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