大きゅうなって
京都に着いたらまず銭湯へ行って・・・
この文章は、当然リアルタイムではなく、ロンドンに戻ってから、日記を基に書いているわけである。たった二週間前のことを書いているのに、何か遠い遠い昔のことを書いているような気がする。同窓会の記憶も何か非現実的で、写真がなければ、
「あれは夢の中の出来事だったのかも。」
と思ってしまいそう。そのときの状況が、普段の自分の生活と乖離していたからだろうか。
ともかく、金曜日の朝、僕は関空に着き、予約しておいたMKシャトルのマイクロバスに乗り、京都へ向かった。途中、サービスエリアに立ち寄る。ロンドンでは朝の気温が十二、三度と結構寒かったが、その日の京阪神は、Tシャツ一枚で外に出られるほど暖かい。
サービスエリアでトイレに入ると、ウォシュレット、除菌剤の入ったスプレー、子供を座らせるシートが付いており、便座も、手洗いも、鏡も、一点の曇りもない。手洗いの水は、冬には自動的に湯になるという。こんなこと、英国では考えられない。極めて日本的。そして、そんな気遣いのできる国民性が好きでもある。
マイクロバスは京都南インターから京都の街に入り、南から順に客を降ろしていく。僕の生母の住む紫野は京都の北なので、僕が降りるのはいつも最後。ロンドンでは深夜にあたる時間だが、良く眠ったので、全然眠くない。あちこち回りながら、京都観光をしているつもりで、周りの様子を窺っている。
生母の家に着いたのは正午過ぎ。讃岐うどんをごちそうになる。アムステルダムでラーメンを食ってから、二十時間以上何も食ってない。うどんが美味しい。生母に自転車を借りる。
「タイヤの空気が減ってるから、角の自転車屋のおじさんに頼んで入れてもらい。」
と生母はいう。そのようにする。
「あんた、川合さんの息子さんか?」
と自転車屋の店先で、親爺さんが言った。
「そうです。母がいつもお世話になってます。」
そう言うと、
「すっかり大きゅうなって。」
五十五歳の男をつかまえてそれはないよな。因みに、自転車屋の親爺さんは当年とって七十三歳だという。
父の家を訪れ、継母と会う。父が亡くなってから、継母は自分の家に戻り、この家では寝泊りしていない。継母に頼まれて、荷物の片付けを始める。父が一度か二度しか着たことのない服がある。でも捨てるしかない。
その午後は結構忙しかった、四時ごろに不動産屋へ行き、家を売る手続きについて尋ね、その後スーパーへ行き、妻に頼まれた食料品を買い、最後は岡崎のD医院へ睡眠剤をもらいに行った。夕食の前は当然銭湯、船岡温泉に行く。さすがにこれだけ動き回ると肉体的に疲れている。夕食の後、僕はすぐに眠ってしまった。
その後、冷えたビールと、母の手料理。これがゴールデンコース。