名曲の宝庫

 

いかつい顔からは想像もつかないピュアな声を出すおばちゃん歌手スーザン・ボイル。

 

「レ・ミゼラブル」がミュージカルとして最初に登場したのは一九八〇年。最初はパリ、フランス語で上演された。そのときは余り話題にならなかったようだ。そのミュージカルに目をつけたのが、英国人の敏腕プロデューサー、キャメロン・マッキントッシュという人。彼は「キャッツ」などをプロデュースしている。マッキントッシュはフランス語のミュージカルを英語に翻訳すると共に、フランス人以外の観客でも理解できるように大幅に手を加えた。一九八五年にロンドンのバービカンセンターで英語版が公開されたとき、批評家の評判は芳しくなく、「名作の切り売り」と批判する「うるさ方」もいたようだ。しかし、この英語版は大ヒット。それ以来ロンドンでは二十六年連続で、計一万回以上の上演がなされている。また、米国のブロードウェーでも大ヒットしてロングランを記録。日本でも何度も上演されている。

このミュージカルで歌われるナンバーもなかなかの名作揃い、有名歌手によって単独で歌われるものも多い。二〇〇九年の紅白歌合戦で、スコットランドのおばちゃん歌手、スーザン・ボイルがこのミュージカルの中の曲、「夢やぶれて」(I Dreamed a Dream、夢を夢見て)を歌ったのを記憶しておられる方も多いと思う。「おばちゃん顔」からは想像も出来ない、ピュアな声だった。

私事で恐縮だが、私の末娘、スミレはこのミュージカルの楽譜を持っていて、彼女がティーンエージャーの頃、よくピアノの弾き語りで「夢やぶれて」、「幼いコゼット」(Castle on a Cloud、雲の上の城)、「オン・マイ・オウン」(On My Own)なんかを歌っていた。どれもなかなか良い曲だと思ったことを覚えている。

クイーンズ劇場は、ロンドンのちょっと怪しい歓楽街、ソーホーのど真ん中、バス通りを挟んでチャイナタウンと向かい合わせに立っている。外から見ると、

「こんな中に劇場があるの?」

と疑いたくなるくらいの小振りの建物。事実、中へ入ってみると、僕がこれまでロンドンで訪れたどの劇場よりも小さかった。しかし、後で調べて見ると一千人を収容できるという。奥行きはともかく、舞台も客席も幅が狭い。あんなに幅の狭い舞台で、大勢の人間が演技をできるのかなと思ってしまう。開演前、舞台の白い緞帳には、シンボルマークの「コゼットの顔」が映し出されている。ロンドンのどの劇場でもそうであるように、まずストールと呼ばれる平土間がある。しかし、バルコニー席はなく、その上に直接アッパー・サークルという円形劇場型の二階席がある。僕の席はアッパー・サークルの真ん中の中段。舞台を正面の上から見下ろすかたちだ。

 開演は午後七時半。客席は七、八割の入りというところ。観客の話している言葉から推測すると、英国人は少なく、観光でロンドンを訪れた人が多いようだ。僕の隣に座っている若いお姉ちゃんばかり四人組も、英語は話しているが、アクセントからして米国かカナダの人だろう。

奥行きはあるが幅のあまり無いクイーンズ劇場。開演前、緞帳にも「コゼットの顔」が映し出されている。

 

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