小人さんの街
「やっぱり、美人が多いわ。わあ、あのお姉さん可愛い!わあ、あの女性も美しい!まさに入れ食い状態!」
そこは旧市街のレストラン、石畳の上のテーブル。隣の席のポーランド支店長のAさんが呆れたように僕を見ている。その日の朝、Aさんと僕は九時半に落ち合い、一緒に某日系企業の仮事務所を訪問。十二時過ぎに客先を出た僕たちは旧市街に戻り、昼食を取っていた。まあ、これも、「社内打合せ」ということになるのだろうか。昨夜の運転手の天気予報は外れ、今日も良い天気、気温は二十度くらいあり、青空が広がっている。乾いた大陸の風が肌に心地よい。旧市街のパステルカラーのファサードに太陽の光に映えている。昼飯にビール。そして、目の前には美人の群れ。こんな出張なら毎日でもオーケー。
Aさんと話していて、彼は僕と似ていると思った。まず、娘が二人いる。それと多趣味だということ。彼は、ヨットを操り、旅行が好きでカリブ海でもヨットで旅をし、奥さんとは社交ダンスクラブで知り合い、ふたりでダンスを楽しみ、バレーボールの選手もしていたという。水泳と、ジョギングと、ピアノと、料理と、絵と、読書と、旅行が趣味の僕だが、金と時間のかけ方では彼が一枚上。彼が自分の家族の写っているビデオを見せてくれたのだが、ちゃんと編集してあり、BGMまで流れている。
「凝ってる!」
この辺りも、写真を撮っては、ネット上にアルバムのページをマメに作っている僕とそっくり。近々、奥さんと娘さんを連れて、日本を旅行すると言っている。
「そんなに趣味があったら人生退屈しないでしょう。」
と僕が言うと、彼は、ちょっと悪戯っぽい目をして言った。
「いいや、いつも退屈しているから、退屈しのぎに趣味が増えていっているのです。」
なるほどね。
昼食の後、四時の飛行機でワルシャワに戻るというAさんと別れる。僕は、少し街中を観光してみることにした。観光案内所があったので、そこで地図をもらう。Aさんも言っていたが、ヴロツワフの名物は「小人」であるとのこと。観光案内所のお姉さんに、
「小人の像ってどこにあるんですか。」
と聞いてみる。
「あちらこちらにあります。」
「例えば?」
「あそこ。」
お姉さんは観光客が十数人立っている、市庁舎の方向を指差した。案内所を出てそちらへ行くと、
「いはった、いはった。」
高さ二十センチくらいの三人の小人の像が石畳の上にいた。
「可愛い!キュート!」
真ん中の小人はゴルフをしている。こんな像が、街のあちこちにあり、それを順番にゲットしていくのが、観光のひとつだそうだ。まるで「ポケモンGO」の世界である。