自動化機械化の功罪
券売機が動かないので、結局窓口で切符を買う破目に。
まだ三時前。どこかへ行こうと思う。しかし、どこかへ行くには、交通機関を使わねばならない。ここはまだ見知らぬ土地。どこから何に乗って行くのかがまず分からない。とりあえず、静かな公園のありそうな場所へ行こうと思い、電車の路線図を研究する。KLには普通の電車と、LRTと呼ばれる高架の上を走る新鉄道システムの二つがあるらしい。
「レイク・ガーデン」という湖のある公園があるとのこと。そこへ行く切符を買おうとして「普通の電車」の自動券売機の前まで行く。五台あるが四台までが故障中、一台しか動いていない。その一台に並んで切符を買おうとするが、いくら硬貨を入れても戻ってくる。仕方なく有人の窓口の列に並ぶ。自動改札も一応六台くらいあるのだが、使えるのは二台だけ。
発展途上国によくある例なのだが、張り切って最新の機械を入れる。しかし、メンテナンスが追い付かないため、最新設備は機能せず、結局人手に頼ることになる。
「人件費が安いのだから、良い格好をせず、最初から人手でやればいいのに。」
つい文句も出る。ホームに出ると、次の列車の出発予定時間は八時何分になっている。つまり、電光掲示板、あるいは時計のシステムが壊れているのだ。
一駅乗って、「クアラルンプール」いう町の名前と同じ名前の駅で降りる。駅自体は歴史を感じさせる立派な建物だった。前に国立モスクがある。その背後が「レイク・ガーデン」。静かな公園かと思ったら、イスラム教関係の馬鹿でかい施設があるばかり。
「どこでも、寺や教会は金持ちなのだ。」
と思う。余り面白くないので、近くのチャイナタウンへ歩いていこうと思う。僕は、基本的に歩くことにより土地勘を養う「タチ」なのだ。しかし、歩いて行けないのだ。まず、街中をハイウェーが走っており、それを横断できない。高層ビルがデーンと構えており、それが迂回できない。歩けば十五分くらいの場所だが、結局中央駅まで戻り、また電車に乗り直さねばならない。
僕はだんだんと不機嫌になってくる。昨日までチズコ一家の家族的な雰囲気の中にいたのに、いきなり知らない土地に独りで放り出されたためかも知れない。何か、全てが裏目裏目に出ているような気がする。それに蒸し暑い。
かなり疲れて中央駅へ戻るための電車を待っていると、ひとりのマレー人のお兄ちゃんが英語で話しかけてくる。
「次の電車クラングへ行く?」
「知らんがな、そんなこと。着いたばっかりの僕に聞かんといてえな。」
と思いながらも、先ほど研究した路線図を一所懸命思い浮かべ、
「方向的にはこのホームで合ってるけど、次の電車が行くかどうかは分からないね。」
と答える。何て優しい人なんでしょ。結局二十分以上待って、三分間電車に乗り、中央駅で乗り換え、また三分間電車に乗り、チャイナタウンのあるパサール・セミ駅に着いた。
「クアラルンプール」駅、KLで僕が一番気に入った建物だ。