僕はモニカのお父さん
マッサージをしてもらっているチズコ。頭痛は楽になったかな。
トニーという名の六十歳くらいの男性マッサージ師にマッサージをしてもらう。
「コンピューターとピアノで、首、肩、腕が痛いから、そこを重点的にやってね。」
と頼んでおく。トニーはマッサージをしながら色々話しかけてくる。なかなか流暢な英語だ。一時間のコースが終わった。
「気分はどうだ。」
とトニーに聞かれる。
「産まれたての赤ん坊のような気分だ。」
と答えておく。マッサージで、チズコの頭痛もかなり良くなったという。
「暑いと頭痛が出るのよね。」
とチズコ。気温は三十度程度だし、風はあるし、僕は全然暑いと思わないが。
「ウドン食べに行こうか。」
マッサージパーラーを出たところで、チズコが言った。そう言えば、朝の五時半に飯を食ってから何も口に入れていない。時刻はもう午後一時を過ぎている。
「コーヒーショップ」に入る。僕は、マレーシアにおける「コーヒーショップ」の意味を理解し始めていた。「コーヒーショップ」と言うと「スターバックス」みたいな場所を想像されるかも知れないが、要するに、道路に面し、屋根だけがついた、屋台みたいな場所なのだ。そこでは、コーヒー、紅茶だけではなく、ウドン、チキンライスなど、簡単な食事も出来る。
チズコは一軒の店に入っていき、奥に座っている、店主と思われる女性に「ハロー」と挨拶をした。彼女は息子さんの同級生のお母さんとのこと。ウドン、チキンライスなどを売っている小さな屋台は、そこのコーヒーショップの店主に家賃を払って営業させてもらっている「店子」であるという。
ウドンは日本の春雨とウドンの中間のようなもの。あっさりしたダシで結構美味しい。その後アパートに戻るが、疲れていたので、しばらくの間、眠らせてもらう。
子供の声で目が覚める。時計を見ると四時前。ふたりの息子さんが幼稚園から帰ってきたのだ。部屋のドアを開けてリビングルームを覗くと、五歳のアラタと四歳のオリバーがいた。
「これがモト、モニカのお父さんよ。」
とチズコが僕を紹介する。
「わあ、モニカのお父さんだって。」
と子供達。実は、うちの末娘、スミレ、またの名モニカ、通称ポヨ子は、今年、四ヶ月に渡り東南アジアを旅していたが、その際、十日間ほどチズコの家にやっかいになっていた。つまり、親子で押しかけているわけだ。その後、僕は子供達から「モニカのダディ」あるいは「モニカのお父さん」と呼ばれることになる。つまりここでは娘の方が有名人。
昼ごはんを食べる人達で賑わう「コーヒーショップ」。