疲れを癒すマッサージ
広すぎて、向こうが霞んで見えるチズコ・ジェイソン一家のアパート。
ペナンの空港で、タクシーのクーポンを買って外に出る。それほど暑くない。二十七度くらいか。湿度のある風が、肌に優しい。
タクシーは四十五分ほど走って、チズコ家族の住むガーニー地区に着いた。高層ホテルと高層アパートが海岸に立ち並んでいる。お金持ちの住む場所らしいことは一目で分かる。その下に、屋台の食べ物屋が並んでいるところがアジアらしい。
タクシーの運転手がなかなかチズコのアパートを見つけられない。チズコの電話番号を教えて、彼女と話し、場所を確認してもらう。それでも直ぐには分からず、まだウロウロしている。
やっとのことでアパートの門の前に立っているチズコを発見。タクシーを降りた僕は、彼女とハグをし、頬にキスをした。関空を出て二十四時間。いやあ、思えば長い道のりだった。
ここでチズコとの「関係」に言及しておいた方が良いだろう。妻以外の女性を、わざわざ時間と労力と金をかけて訪ねるというと、怪しまれるかも知れないから。彼女とは、前の会社での同僚。十年近く一緒に仕事をした。同時に飲み友達でもあった。ニュージーランド人のご主人ジェイソンとの間に男の子がふたりいる。僕と同業でコンピューター技術者であるご主人の仕事の関係で、三年前に英国からペナンに移り住んだ。ロンドンにおられる時から、チズコ、ジェイソン一家とは家族ぐるみのお付き合いなのだ。
ペナンには、外国企業が沢山進出しており、日本企業だけでも三十社近く工場がある。日本人学校まである。小さいが、ちょっとした日本人社会が形成されている。
チズコは高層ビルの三十三階にある、彼らのアパートに僕を案内した。
「ひええ。」
足を踏み入れて僕は驚くばかり。広い。リビングルームだけで、僕のロンドンの家がすっぽり入るくらいの広さがあるのだ。日本式に言うと、百畳はあるだろう。
「子供達は、リビングルームでスケートボードで遊んでるわ。」
と彼女は言った。
窓からの見晴らしも最高。目の前が海で、海峡を挟んで、マレーシアの本土が見える。
僕にあてがわれた客室だけでも、バスルームを入れて五十平米はある。何とも贅沢なお住まいだ。家賃を聞いてみるが、ロンドンの感覚からすると信じられないくらい安い。
ご主人は夕方までお仕事、子供達は三時半ごろまで幼稚園だという。
「わたし、ちょっと頭痛がするので、マッサージに行こうと思ってるの。モトも一緒に来る?」
そう言えば、最近、コンピューターとピアノのやりすぎで首や肩が痛いし、昨日から乗り物に乗り続け、腰と背中も疲れている。マッサージも良いかもしれない。彼女の車で、近くのマッサージパーラーへ行く。待合室には日本の漫画本がずらりと並んでいる。日本人の客が多いのか、マレーシア人は日本の漫画が好きなのか。
マッサージパーラーの待合室には、日本のコミック本がギッシリ。誰からの需要なんだろう。