マユミのモットー
カサネの結婚式では一体何枚の写真が撮られたんだろう。
十二月二十一日、五時半に起きる。まだ真暗い中、六時から、今日は鞍馬口通りを東に向かう。鴨川まで行き、北山橋と出雲路橋の間を往復。途中、百歩走って、百歩歩くというのをやってみる。いずれにせよ、時差ボケもあるし、身体も疲れているし、無理は出来ない。七時半に戻ると、母が手打ちの麺で鍋焼きうどんを作ってくれていた。それを食う。美味い。
マユミは、風邪がまたぶり返したのか、相変わらず起きてくる気配がない。そのうち、母も、耳鳴りとめまいがすると言い出した。母にも床に入ることを勧める。
午前中、父の姉の息子さん、つまり僕の従兄弟のFさんが田中大久保町に住んでいるので、土産を持って挨拶にいく。姉は九州、僕は英国に住んでいるので、Fさんが、現在のところ、京都に住んでいる唯一の父の身内なのだ。
自転車で、鴨川を渡る。今朝も鴨川の畔を歩いたが、鴨川を見るたびに、
「京都に帰ってきたんだ。」
という感慨がある。
十一時前に、Fさん宅から帰る。母もマユミも寝ている。しかし、マユミは今日、ずっと寝ているわけにはいかないのだ。彼女は午後の列車で、京都から金沢に向かう予定になっている。マユミは十二時ごろにやっと起きてきて、母が朝用意したうどんを食い始めた。床に入ったままの母に挨拶して、午後一時ごろに家を出て、バスと地下鉄を乗り継いで、京都駅に向かう。
「大きなスーツケースがあるのでタクシーを呼ぼうよ。」
と僕は妻に言ったのだが、例え熱があっても、荷物が大きくても、タクシーは使わず、公共交通機関だけを使うというのが「マユミのモットー」らしい。
京都駅で金沢までの「サンダーバード」の切符を一枚だけ買い、マユミと改札口で別れる。次回彼女に会うのは、一月五日、ロンドンのヒースロー空港になるはず。
地下鉄で四条の本屋へ、注文しておいた本を取りに行く。十月の初旬、日本の雑誌社から原稿の依頼が来て、増刊号に一万五千字ほどの小説を書いた。「アダルト小説」だ。もちろんペンネームで。その本を取りに行ったのだ。当然、僕は自分の書いた分以外は、どんな話が載っており、どんな体裁なのかは知らない。
本屋でその本を受け取って唖然。予想以上の、かなり強烈で過激な表紙。
「こんなの持って地下鉄に乗れないや。『変態』と間違われる。」
とおののいていると、
「カバーをおつけしましょうか。」
と店員が尋ねる。
「ぜっ、是非お願いします。」
と僕は慌てて答えた。その内容からして、初めて活字になった文章を、家族や友人に見せられないのが残念といえば残念だけど。
四条大橋と鴨川をバックに。後ろは南座。