シビル・ウェディング

 

なかなかシンプルな結婚式。シンプル・イズ・ベスト。

 

十二月十九日、八時に母に起こされる。睡眠剤がまだ効いているのか、時差ボケなのか、頭がフラフラして真直ぐ歩くのに苦労をする。それでも、三十分ほどで、髭を剃り、礼服に着替え、白いネクタイを締め、革靴を履いて、カメラを持って家を出る。マユミも今日は何とか起きてきたようだ。もし今日寝ていて、結婚式に出席できなければ、彼女は何のために日本に帰ってきたのか分からない。

三人で堀川通りのバスに乗って七条堀川にあるホテルに着く。クロークルームでコートと荷物を渡して、新婦側の控え室に入ると、新婦のカサネがいた。白いウェディングドレス姿。なかなか可愛い。

「あれ、ウェディングドレス、写真と違うよ。」

と僕が言う。彼女は数週間前、「ウェルカムポスター」、つまり披露宴の会場の入り口に貼るポスターの作成を僕に依頼してきていた。タキシードとウェディングドレス姿の新郎新婦に似顔絵を入れてくれという注文。可愛い姪の「一生に一度」の結婚式のこと、

「はいよっ。」

と引き受けた。しかし、似顔絵を描けと言われても、僕は新郎のタダシの顔を知らない。それで、カサネは「前撮り」したウェディングドレスとタキシード姿の写真を僕に送ってきていたのだった。その写真で新婦が着ていたドレスと、今のドレスが違うのだ。

「あれは、二番目に好きやったドレスやけん、ポスターに使ったと。これが一番着たかったドレス。」

と、彼女は博多弁で言った。新郎側のお父さん、お母さんが挨拶に来られて、頭を下げる。なかなか実直そうなお父さんと、優しそうなお母さんだ。

午前十時半、式場へ案内される。式場をバックに新婦関係者が左側、新郎関係者が右側に座る。僕とカサネの共通の友人、ヨネ夫妻と息子さんの顔も見える。彼ら友人たちは、後ろに席を取る。

「シビル・ウェディングの形式で執り行ないます。」

と司会者が言った。どんなものかと思ったが、神主さんの「かしこみかしこみ申す」のお払いもなし。牧師さんと聖書もなし。指輪を交換し、婚姻届は既に済んでいるので、それが朗読されるという、ごくごくあっさりしたものであった。音楽は、女性ボーカルと、フルートとオルガン、これもなかなかシンプルで良い。式は三十分弱で終わった。

それから披露宴までの間の三十分。僕たち夫婦は忙しい。宴会場でピアノのリハーサル、それと譜面めくりをしてくれる司会者の女性との打ち合わせがある。結構弾きやすいピアノだが、譜面めくりをやってくれる司会者と、タイミングとサインを決めて、一度通して弾くだけの時間しかない。

「おふたりのピアノは大トリですので。」

と司会者のお姉さん。

「ひえ〜、それまで酒を飲めへんの。」

ウェディングケーキのカット後、互いに食べさるって、今の流行なのだろうか。