見送りがあるのは良いもの

 

出発の数日前、会社の情報システム部のクリスマスパーティーがあった。

 

家には誰もいないので、一人で妻の用意しておいてくれた飯を食い、その後、二階の自室に上がり自失状態でゴロゴロしていた。クリスティアンと一番仲が良かったカロラが心配だが、電話する勇気がない。電話をしても、彼女にかける言葉が見つからない。

九時過ぎ、妻が帰って来た。僕が何もしないでゴロゴロしているのを見て、

「どうしたの。」

と聞く。僕は、デートレフからの電話でクリスティアンの死を知ったことを話した。誰かに話して、心の引っかかりが少しは楽になったようだ。

 翌日は仕事が終わってから、直接ヒースロー空港へ向かうことになっていた。僕の会社は、航空貨物を扱う会社なので、空港の直ぐ近くにある。だから便利。

家を出る前、メールをチェックすると、京都のサクラからのメールが入っていた。結婚式の翌日、祇園の店を予約しておいてくれたとのこと。

「結婚式の後は、祇園で『散財』やで。」

ぼくはマユミに言った。

 朝、エアポートバスの乗り場までマユミに車で送ってもらう。そこから、ヒースロー空港行きのバスに乗る。しかし、ヒースローまでは行かず、直前の会社の前で降りる。

何度も書くが、今日はまだ丸一日働かねばならい。まだカロラに電話をする気にはなれず、彼女に用事があっても、事務的なメールで済ませてしまう。

午前中、インターネットを使って、これから乗るマレーシア航空の飛行機のチェックインをする。通路側の席はなかったが、一番後ろの席が取れた。機体が細くなっているところなので、少しは余計に空間があるだろう。僕はクロウストロフォビア(閉所恐怖症)なのだ。

いつものように仕事をする。昼休み、弁当を食った後は辺りを散歩し、五時過ぎに仕事が終わった。オフィスを出る直前に、ドイツのデートレフとカロラにメールを書いた。

「葬式には出られないけど、よろしく。」

飛行機の出るのは十時。飛行機の中で食事は出るだろうが、それまで腹が減るので、会社のキッチンで、非常食料として置いてあった「赤いきつね」を食っていた。同僚のエミがキッチンに入って来る

「モト、どうしたの。今頃カップ麺なんて食っちゃって。」

「今夜の飛行機が遅いので、それまで腹が減ると思ってね。」

「何なら空港まで送って行きましょうか。私の仕事の終わる六時ごろでよかったら。」

「ラッキー。」

午後六時、僕はエミの車で会社を出た。十五分ほどでヒースロー空港のターミナル四に着く。別れ際にエミがハグをしてくれる。空港で別れを惜しんでくれる人がいるものは、何と言っても嬉しいものである。(特にそれが女性であったら。)

ヒースロー空港第四ターミナルで出発を待つ。ここにもクリスマスの飾り付けが。