結婚式に行くんだ

 

クリスマスに家にいないので、一足早いクリスマスディナー。スミレはまだダーラムから戻っていない。

 

荷物を預けて中へ入ったのは午後七時。出発までまだ三時間近くある。バーに入り、ビールを飲みながら、娘のミドリに便りを書く。僕は条件反射というか、空港で時間があるといつもミドリに手紙や葉書を書く。

 しかし、今日は、独りでビールを飲むのには良くない日。昼間、仕事場では忙しさに紛れてクリスティアンのことを思い出している時間がなかった。しかし、こうしてひとりで座っていると、ついつい彼のことを考えて、涙が出てくる。僕はミドリへの手紙にそのことを書いた。

携帯からデートレフに電話をする。遺体の第一発見者で、会社では上司である彼は、今日一日、警察との対応や、身内への連絡で大変だったようだ。

「カロラは?」

と聞くと、

「かなりショックを受けてるけれど、何とかやっている。」

とのこと。

「悪いけど、日本にいる間は何もできない。」

とデートレフに言う。

「モト。おまえはこれから葬式に行くんじゃない。結婚式にいくんだから。もっと明るい気持ちにならなきゃ。」

とデートレフは言う。それもそうだ。

待ち時間や飛行機の中で聞くために、今朝、音楽のCDを適当に選んで持ってきていた。何を考えたか、何も考えてないというか、それがカラヤン、ベルリンフィルの「ブラームス交響曲全集」なのだ。ここでブラームスなんか聞くとますます気分が重くなりそう。僕は、ミュージックショップに入り、「アバ」と「ウェストライフ」のCDを買い、それを聞きながら飛行機の時間を待った。

「そうだ、僕は葬式に行くんじゃない、結婚式に行くんだ。」

そう自分に言い聞かせながら。

零時十五分前に発つマレーシア航空一便、クアラルンプール行きに乗り込む。飛行機は十三時間飛び続け、翌日の午後六時過ぎクアラルンプールに到着、そこで五時間ほど時間待ちをしてから、深夜零時、関西空港行きの飛行機に乗り、三日目の朝七時に関空に着くことになっている。つまり、機中泊二晩という結構きつい行程。帰り道にマレーシアに寄ろうとすると、行きもマレーシア経由になるらしい。マユミは明朝ロンドンを発って、ヘルシンキ経由で関空に向かい、僕の三時間半ほど後に関空に着くことになっている。

 乗ると同時に父からもらった睡眠剤を飲む。僕の帰国が決まった三ヶ月前、父は

「飛行機の中で飲むように。」

と睡眠剤を二錠同封してくれた。その心遣いが有り難い。

マレーシア航空機内で。スチュワーデスは民族衣装的なユニフォームだ。