炭焼き、その一
窯の中に木を並べる。場所によって焼き上がりも変わってくるという。
僕が世話になっていた農場兼民宿のオーナー、Sさんは炭焼きのスペシャリストである。特に、「竹炭」を焼くことができる、数少ない人物であるという。Sさんは日本で竹炭の製法を一年間修行され、現在は敷地の中に炭焼きの窯を持っておられる。僕は旅行中やモトゥエカの街で、住んでいる場所を尋ねられ、Sさんの名前を出すと、
「ああ、あの『バンブー・チャコール』を作る人ね。」
と言われたことが何度かあった。
Sさんが、火曜日から、友人のペーターと一緒に炭を焼くとのこと。僕も、珍しいものを見せてもらうことになった。火曜日の昼前、ペーターが車の後ろのトレーラーに短く切った気を乗せてやってきた。「ウーファー」として彼の農場で働く、アナという若い女性も一緒だ。アナは大学で、「炭を土壌改良に使う」というテーマで勉強したとのこと、フィールドワークでケニアにいたと言っていた。
ペーターは、切ってから二年置いたヘーゼルナッツの木を持ってきている。素人が見ても、きめの細かい上質の木であることが分かる。彼も気合が入っている。窯の蓋が開けられ、Sさんの指示の下、ペーターとアナが木を窯に入れていく。窯は直径八十センチ、長さ一メートルほどの円筒を横にした形。砂に埋められ、片側に焚口、もう片側に煙突が付いている。日本で作られたものを輸入したのだ。
木を入れた後、蓋をし、その蓋に砂を被せ、火が点けられる。その際、Sさんによる、炭の完成を祈る「儀式」が行われた。窯の中に入れた炭の「原材料」の木に、直接火をつけるわけではない。焚口に薪を入れて、それに火をつけ、窯の温度を上げ、それによって「原材料」を燃焼させ、タイミングを見て空気を遮断、「炭素の塊」にしようというもの。
火を焚くのに約三日、火を落としてから冷ますのに約三日。計六、七日かかるという長期戦である。今日は火曜日であるから、完成予定は来週の月曜日辺り、僕がニュージーランドを去る直前。
「大丈夫、モトがここにいる間には焼き上がり、取り出せるから。」
とSさんは言う。
焼いている間、窯の蓋を開け、中身をチェックすることはできない。Sさんは、煙の色を見て、今内部がどうなっているかを判断する。なかなか勘と経験が要る名人芸なのだ。
「ペーター、炭を焼いて、それを何に使うの?」
僕が聞く。まさか、こんな大量のバーベキューをするとも思えない。
「粉にして、土壌改良に使うつもりだ。炭を土に混ぜると、微生物が繁殖しやすくなるんだ。でも、粉にするのが大変でね。この前ウーファーにやらしたら、粉になる前にバケツが壊れたよ。」
彼はそう言って笑った。
いよいよ焚口から点火。これから最低六日はかかる。