奇跡のリンゴ
リバーサイド・コミュニティーでは新鮮な牛乳が例の自動販売機で買える。
その日のコミュニティー・ランチのメニューは、ラム・シチューとカボチャやその他野菜スープ(外観は味噌汁にそっくり)、サラダにライ麦パンだった。僕はこのコミュニティーがヴェジタリアンであると誤解していたが、ここに住む方は肉も食べるとのこと。全てこのコミュニティーで採れた材料で作られたのこと。もちろんドイツ風のパンも自家製で、ドイツ出身の女性が焼いたとのことだ。
食事の最中も、どんどんと人数が増える。僕の横に座ったのは、三十代前半の体格の良い男性、トリスタンという名前で、ここの牧場の乳牛飼育担当とのこと。食事をしながら彼と話す。
「どれくらいこのコミュニティーに住んでいるんですか。」
という質問に、彼は、
「生まれた時から。」
と答えた。ええっ。彼のお祖父さんがこのコミュニティーの創始者の一人で、彼のお父さんも、彼も、このコミュニティーで生まれ育ったという。
「第一次世界大戦中、宗教的な理由から徴兵を拒否して、投獄された人々がいたんだ。その妻子がこの場所に住み始めたのがこのコミュニティーの始まりなんだ。」
と彼は言った。したがって、このコミュニティーの人々の共通のテーマは「反戦」であるとのこと。このコミュニティーに住んでいる人で、正式の「メンバー」は二十人だけ。それ以外に、宿舎を借りている人、短期滞在の人など、合わせて八十人が今住んでいる。メンバーになるには、二年間まず住んでみて、他のメンバーの承認を得てから、メンバーになると個人的な資産を凍結されるのだという。
彼の仕事についても尋ねてみる。
「乳牛が百六十頭いるんだけど、その世話の責任者なんだ。」
と彼は言う。
「どれくらい牛乳が採れる?。」
「毎日二千リッターくらいかな。」
「それを自動販売機で売ってるの?。」
「それはほんの数パーセントで、大部分は加工業者に売ってる。」
とのことだった。食事の後、トリスタンはまた牛の世話をしに戻っていった。
広いコミュニティーの敷地を一回りした後、食事の後片付けを終えた、日本人のMさんと話す。彼女は「ウーファー」として数週間の予定で働き、敷地内にあるウーファー専用のホステルに住んでいるという。彼女は、その日「奇跡のリンゴ」という本について話をしてくれた。木村秋則さんという青森県のリンゴ農家の人が、辛酸を重ねながら無農薬リンゴを育てた話。自分も有機農場をやりたいと思っている彼女にとっては、力の入るテーマだ。リンゴ園の草刈りをやっているだけの僕だが、彼女の熱意を感じながら話を聞いた。
リバーサイド・コミュニティーの牛たち。昼間は暑いので、木の下に集まっている。