湯治場

高い山々に囲まれたハンマー・スプリングスの町。雪の残る頃にもう一度訪れたい。

 

午後三時にハンマー・スプリングスに着いた。まずやっておかねばいけないのは、宿の確保である。幸い街を入ってすぐのところで「空室あり」とサインを出したモーテルがあった。ニュージーランドではどこでも、モーテルの前に「Vacancy」と書いた看板が出ている。部屋が空いているときはそのまま、全室埋まった時はその前に「No」がぶら下げられ、「No Vacancy」と表示される。モーテルは一室ずつ外に面した入口があり、車を直接部屋の前に停められるようになっている。

「昨日、カイコウラではどこも満員でね。今日は空室が見つかってよかったよ。」

と、僕が言うと、

「うちも本当は満室だったんだけど、一日早く帰った人がいてね。あんたはラッキーだ。」

受付の男性が、そう言いながら、牛乳を一本くれた。昨日もそうであり、今後もそうなのだが、ニュージーランドのモーテルでは、部屋に入る前に必ず牛乳を一本くれる。お茶かコーヒーに入れてね、ということらしい。僕はコーヒーや紅茶にミルクを入れないので、いつも部屋に着くなり、グラスに注いでそのまま飲んでいた。ニュージーランドの牛乳、結構美味しい。

ハンマー・スプリングスは山に囲まれた保養地。僕がこれまで訪れた場所では、オーストリアのインスブルックに似ている。建物が垢抜けていて、なかなか可愛い街という印象。せっかく保養地、湯治場に来たのであるから、先ずは「風呂」に入ることにする。

街の真ん中に、町が経営するプールがあると聞いていたので、そこへ行く。中へ入ると、露天風呂風の沢山の小さなプールと高い滑り台がある。水温は三十八度とのこと。要するにぬるま湯。浸かると、最初は温かく感じるが、そのうち物足りなくなる。しかし、更に時間をかけてじっくり浸かっていると、だんだん身体の中からホコホコと温まる。時々ジャグジーにも入り、草刈りで凝った腕や腰の筋肉をほぐす。

プールの帰り、英国の家族に出すために絵葉書を買う。土地柄、山を扱った絵柄が多いが、どれも山がまだ雪で覆われている季節に撮った写真である。さすがに、真夏の今、辺りの山に雪はない。しかし、何と言っても、山は雪をかぶっている方が、断然きれい。

「次はこんな風に山が雪で覆われてる頃に、来たいもんだねえ。」

と、絵葉書を買うときに売店のお姉さん言う。

「後二ヶ月もすれば、こんな景色になるから、それまでいれば?」

と彼女は事もなげに言った。カフェでビールを飲む。「風呂上りのビール」は旨かった。

部屋に戻りテレビをつけると、スカイテレビでソチ・オリンピックの中継をやっていた。

「今回のオリンピック、全然見ていないなあ。」

僕は滅多にテレビを見ない人なのだが、例外的に、オリンピックやサッカーのワールドカップは見ていた。しかし、ニュージーランドの選手はあまり活躍していないのか、こちらでは冬季オリンピックを見る機会が全然ない。どうなっているのか見当もつかない。

 

お湯に入って、疲れを癒す。もうちょっと熱ければ申し分ないのだが。

 

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