カイコウラの夜

至近距離まで近づいても、構わずお昼寝をするアザラシ君。

 

 午後三時ごろにカイコウラに到着。ヒッチハイクの若者を降ろす。彼らは次の車を捜して、今日中にクライストチャーチまで行きたいと言っていた。

「ホエール・ウオッチング」は予約が必要なので、観光案内所へ行く。案内所のお姉さんによると、明日は土曜日なので、結構予約が詰まっているけれど、朝一番、午前七時十五分の船なら空いているとのこと。ちょっと早いがそれを予約する。

 カイコウラは半島と、その両側の湾から形作られている。半島の先端にアザラシのコロニー、繁殖地があるというので、半島の先に向かって車を走らせる。道路が切れたところの駐車場に車を停め、岩浜伝いに歩くと、一分もしないうちに、いました、いました、アザラシさんが。それも、至近距離に。二メートルくらいまで近寄っても、アザラシは全然気にしないで寝ている。時々顔を上げてあくびをして、また寝ている。全部で六、七匹。

「今日は少ないね。いつもはもっといるんだけど。」

と、クライストチャーチに住んでいて、ここへはしょっちゅう来ると言う年配の女性が言った。

 アザラシを見た後、半島を散歩する。二千メートを越える山々が町の背後に迫っている。五時過ぎ、カイコウラ半島から南へ二十キロ離れた、Eさんのモーテルへ向かう。「クジラの尾」の看板が目印とのこと。難なく見つかった。この辺り、山が海まで迫っていて、道路と鉄道が、崖を削って作られている。

「予約しておいてよかった。」

と僕は胸を撫で下ろす。週末のせいか、カイコウラのモーテルや民宿には、全部「満室」の表示が出ていた。もしモーテルを予約していなければ、これから不安な気持ちで宿捜しをしなくてはならなかっただろう。

 モーテルでオーナーのEさんと話す。日本人女性のEさんは、ニュージーランド人のご主人と共に、このモーテルを経営されている。彼女は元女子ラグビーの選手で、何とワールドカップに日本代表選手として、二回も出場しているという。ご主人も、ラグビーのコーチをなさっていたという。リビングルームのテレビには、ラグビーの試合の中継が写っていた。

 夕方、モーテルの隣のカフェにビールを飲みに行く。空いた場所を探すのが難しいほど混んでいる。ビールを飲みながら日記を書いていると、肩を叩かれた。Eさんだった。

「混んでいるでしょ。今日は金曜日、近所の人たちが集まって飲む日なんですよ。」

なるほど、ここに集う人たちは、地元の人だったわけだ。引き続きEさんと話をする。

「ニュージーランド人って、頑張って『一番』なろうなんて思わない人たちなんです。それに誰も平等だと思ってるから、命令されるのが大嫌いなんですよね。だから、モトさん、何を頼むにも、必ず『プリーズ』を付けた方がいいですよ。」

と彼女は言った。カフェでも中継していたラグビーの試合は「七人制」で、北島のウェリントンで今国際試合が行われているという。そのルールを彼女が説明してくれた。

 

実物大のクジラの尻尾がEさんのモーテルの目印。

 

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