ニュージーランドの川
ネルソン・レイク国立公園で。1月にロンドンを出たときと同じものを着ている。
ニュージーランドに来て二週間。体調もかなり回復したので、三日間ほど旅に出ることにする。最初のターゲットは「蚕浦で鯨見物」、いや、「カイコウラでホエール・ウォッチング」である。
二月七日、金曜日朝八時、僕はレンタカーでSさんKさんの家を出発。レンタカーは、ネルソンに着いて以来ずっと借りている。実際、田舎に滞在していると、車がなければ身動きが取れない。カイコウラまでは普通に走って四時間半くらいの距離だという。カイコウラでは、Sさんの知り合いのEさんが経営するモーテルを、前日予約してもらっていた。
天気は良いが涼しい朝、レンタカーのパネルでは「気温摂氏九度」と表示されている。気温が十度を下回るとさすがに寒く、夏なのに暖房を入れての運転。天気予報によると、カイコウラの天気が明日、明後日と「雨」になっているのが気掛かりである。
最初の目的地は、山と湖がきれいだというネルソン・レイク国立公園の中心地、セント・アーノルド。走り出してまず気が付いたのは、
「ニュージーランドの道路は川に沿って作られている。」
ということだ。道路の傍を、川が流れているというパターンが圧倒的に多い。ニュージーランドでは、山と海が一級品であり、そのコンビネーションが絶妙と先に書いたが、川と雲というのも、ニュージーランドの風景を構成するのに欠かせない。渓谷を流れる水は澄んでおり、山の上にかかる雲が風景にアクセントを添えている。
一時間半ほど走ってセント・アーノルドに着き、湖畔に車を停める。山に囲まれた湖、北海道の阿寒湖、然別湖と同じ趣がある。しかし、ちょっと寒すぎる。湖面を渡る風が冷たい。僕は、三十分ほど湖畔にいただけで、カイコウラに向かってまた車を走らせる。
山の中のセント・アーノルドから、海岸にある町ブレナムまで、二時間走った。これも川に沿った道。牧草地は間もなく終わり、道の両側の谷に沿って、ブドウ畑が広がる。僕は二時間、ひたすらブドウ畑の間を運転した。交通量は、非常に少なく、十分に一度くらい車にすれ違うだけ。行けども行けども、ひたすらブドウ畑が続く。このブドウ畑から生産されるワインは、天文学的な量になるのではないかと思ってしまう。
ブレナムでやっと景色が変わり、僕は正直ホッとした。スーパーマーケットで食料を買い、昼食を取る。ブレナムの町外れでドイツ人男性とフランス人女性のカップルを乗せる。さすがに、独りで運転することに飽きて来ていた。
「へえ、これドイツ語じゃん。」
乗り込んできたお兄ちゃんは、車の中にドイツ語のオーディオブックが流れているのに驚いている。彼らと話をしながら、海岸に沿ってカイコウラに向かう。鉄道が道路に沿って走っているが、列車には一度も会わない。木は少なく、褐色の丘陵地帯が延々と続く。
「あっ、アザラシ。」
フランス人のお姉ちゃんが叫ぶ。慌てて路肩に車を停め、望遠レンズのついたカメラを持って、外に出る。いたいた。数匹のアザラシが、岩の上で昼寝をしていた。
何百万本あるのか分からないブドウの木。いったい、どれだけのワインが採れるのか。