キーウィ
大口消費者のこのおじさんは、バケツを持って牛乳を買いに来ている。
水曜日の朝、五時半にSさんKさんの家を出て、ナギサをネルソン空港まで送っていく。辺りはまだ真っ暗。車で走っているうちにだんだんと夜が明けてくる。彼女は六時五十分のクライストチャーチ行の飛行機に乗った。最後はお互い、かなりイラついたり、ブーたれたりしていたが、観光をしているとき、話し相手がいたのはよかった。長旅と環境の変化で疲れが出てきたのか、その日は扁桃腺が腫れ、寒気がし、体調は余り良くない。
その日の午後、Sさんが牛乳を買いに行くというのでついていく。牛乳は自動販売機で買う。しかし、その自動販売機は日本のものとは大きく違う。牛乳を買う人はビンを持参するか、先ずビンを買わねばならない。そのビンを自動販売機の中に入れ、お金を入れると、牛乳が出て来る。自動販売機は搾乳場の横にある、つまり、搾りたての牛乳が出てくるのである。冷蔵はしてあるが殺菌はしてない。牛乳の表面には、脂肪が浮いている。ひとりが買った後、熱湯が流れ、機械が殺菌されるようになっている。
「日本では畜産物が工場で作られるように作られている。」
と車の中でSさんが言う。
本来、人間の食べられない草を牛が食べ、それにより成長した牛を人間が食べたり、牛乳を人間が飲んだりするのは自然の摂理にかなっている。しかし、現在、多くの場所で、本来人間も食べることができる穀物を、牛に与えて肥育している。その穀物を人間に回したら、何人の人を飢えから救うことができるだろうか。そんな話をする。買って来たばかりの牛乳を飲ませてもらう。動物の匂いがするが、味は驚くほどあっさりしていた。
ナギサと入れ替わりに、SさんとKさんの息子さんがお孫さんを連れて来られた。明日はお孫さんの五歳の誕生日だという。小さな女の子を迎えて、家の中が急に賑やかになる。夕方、息子さんと話しているとき、僕はこれまで気になっていたことを聞いてみた。
「ジャパンはジャパニーズ、アメリカはアメリカン、オーストラリアはオーストラリアン、ではニュージーランドは?」
息子さんは躊躇なく、
「キーウィ。」
と答えた。「キーウィ」とはニュージーランドにしか住んでいない鳥の名前だという。
その少し後、僕はある店で寿司を買った。そこには二人のアジア人の若い女性が働いていた。その二人のお姉さんに、どこから来たのか聞いてみた。
「彼女は韓国人だけど、私は『キーウィ』。」
とひとり言った。そんな使い方をするのだ。その国の代名詞になるくらいだから、どこでも見られる鳥なのかと思ったら、そうではなく、夜行性で、絶滅の危機に瀕しており、見た人は少ないと言う。
ナギサが帰ってから急に暖かくなり、晴れの天気が続く。と言っても、最高気温はせいぜい二十五度前後。朝夕は涼しく、気温が十度を割ることある。乾燥して過ごし易い。
キーウィの保護地区の立札。犬は入れない。