完全なる静寂

この風景から「シルクロード」を思い出すのは突飛な発想だろうか。

 

 ロッジでの昼食の後、僕たち海岸に戻った。二時半に、船が迎えに来るので、船を降りた場所に戻っていなければならない。しかし、延々と続く砂浜、どこで降りたか、場所を特定するのが難しい。

 引き潮である。砂浜を歩いていると、波打ち際の反対側、山側の方にも、干潟が広がっているのが見える。風の当たらない場所に寝転ぶ。ナギサはどこか別のところを歩いているらしく、姿が見えない。干潟を横切って、トレッキングの人が歩いている。僕はそこに物音が全くないことに気が付いた、波の音も、セミの鳴き声も、風の音も聞こえない、「完全な静寂」。非日常的な世界である。

 僕は、何故か、何十年も昔に見た、NHKテレビの「シルクロード」の一場面を思い出した。陽炎の立つ砂漠を、横切っていく隊商の人々。干潟を横切って歩いているトレッキングの人を見ると、その光景を思い出す。キタローの音楽と、石坂浩二のナレーションが聞こえてきそう。

二時半に船がやってきて、ピックアップされる。乗ったのは僕たち二人だけだった。昨夜良く眠れなかったと言っていたナギサは、船の中で眠っていた。

 翌日の午後、ナギサとホワイト・ロックに登った。先にも述べたが、ホワイト・ロックはペーターとメヒティルトの私有地にあり、彼らの家の横を通っていかねばならない。ペーターの家の下に車を停めると、犬のミッキーがやってきた。

「ミッキーがいるから大丈夫よ。」

とメヒティルトが言う。ミッキーが道案内をしてくれるらしい。

 事実、ミッキーが上まで案内してくれた。彼は自分で柵を開けることはできないので、柵の前で待っていた。また、余りに遅い僕たちの歩みに呆れて、先に行ってしまうことがあったが、必ずどこかで待っていてくれた。四十五分後、僕たちは、山の上の白い水晶の塊、ホワイト・ロックに辿り着いた。上り坂は結構きつかった。眺めの良い場所、涼しい風が吹き抜ける。ここも本当に静かな場所。

「案内してくれてありがとう。」

とミッキーを抱いて言う。利口な犬である。

帰り道、メヒティルトからKさんに頼まれていた卵を買い、お土産にライムを大量にもらった。夫妻は明日からカヤックの旅に出るという。その後挨拶に行ったシローとラニに家では、お土産にイチジクとプラムを貰った。

 この辺りに住んでいる人たちは、お互いに出来た野菜や果物を交換する。果物や野菜は、出来る時は食べ切れないほど出来てしまう。しかし、なかなか良い習慣だと思う。

 ナティモティの部落にも、モトゥエカ川に架かる吊り橋がある。この橋は自動車も通れる結構しっかりした橋で、昨年完成後百周年を迎え、お祝いがあったという。ナギサと僕はその橋の横に車を停め、橋から川に飛び込む若者を見ていた。

 

ミッキーのガイドで、ホワイト・ロックに登る。

 

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