ゴールデン・ベイ
「限りなく透明に近いブルー」という言葉の意味が良く分かる、ププ・スプリングス。
ミュージック・フェスティバルは更に続く。ドラム・バンド、ロック・バンド。大勢の人が、音楽に合わせて踊っている。ロック・バンドと一緒に、何故か仏教の僧が登場。辺りが涼しくなってきた。日差しの中にいると暖かいが、日陰は寒い。太陽が沈むにつれて、僕は斜面を上へ上へと移動した。何人かの人と話をする。ネルソンから来たという男性は、
「ネルソンは、南半球では一番仏教徒が多い町、お寺ある。ダライ・ラマも来た。」
と言う。舞台の上には赤い衣を着たダライ・ラマみたいな僧が相変わらずいた。寒さが身に応え始めた九時過ぎ、僕らは帰路に就いた。今年のフェスティバル、天候のせいで、例年より大幅に観客が少なかったそうである。
翌日月曜日は、ゴールデン・ベイへ行くことになっていた。ゴールデン・ベイは、ニュージーランド南島の最北端。温和な気候と、きれいな海岸で有名な場所とのこと。九時にナギサと車で出て、北へ向かう。モトゥエカの町を出ると、道は間もなく上り坂、つづれ折れになる。少し上がっていくと、石灰岩が草の上に点在する、カルスト地形が現れる。鍾乳洞の看板が出ている。峠で車を停め展望台に行ってみた。後ろは山、眼下には湾が広がっている。湾の向こう側にはネルソンの街が望まれ、その後ろにはまた高い山がそびえている。先に「海と山のコンビネーションが絶妙」と書いたが、その言葉を繰り返したい。
道が下り坂になり、三十分ほどで、タカカの街に着く。そこの街外れのププ・スプリングスという場所に行く。その日訪れる場所は、Sさんの「ご推薦コース」。地元の方が、経験と、評判と、所要時間から考えてくれたコースなので、間違いはない。
さて、ププ・スプリングス、駐車場に車を停め、よく整備された森の中の遊歩道を進んでいく。渓谷に澄んだ水が流れている。両側にはシダが茂っている。
「京都の清滝みたいな場所やね。」
と、京都出身であるナギサと僕が話す。しかし、実は、それだけではなかった。しばらく行くと湖があり、そこにプクプクと水が湧き出していた。プクプク・スプリングス。
「何ちゅうきれいな水の色やろ。」
二人は同時に言う。水はある部分はエメラルドグリーン、ある部分はコバルトブルーで、神秘的な色をしている。一メートル近い大きな魚の影が青い水底の上に動いている。何の魚なんだろう。
ププ・スプリングスを出た僕らは、タカカの町で昼食を取り、海岸沿いの道を反対側、東に向かう。引き潮、広い海岸が広がっている。ニュージーランドでこの景色を見ると、ほぼ自動的に、映画「ピアノ・レッスン」の情景を思い出す。ピアノと幼い娘と一緒にニュージーランドに嫁いできた女性、エイダ。新しい夫はピアノを家に運ぶことを拒否し、ピアノは砂浜に放置される。彼女は、浜辺に来てそのピアノを弾く。マイケル・ナイマンの名曲。娘のミドリはその曲が好きで、よく自分でも弾いていた。非現実的な設定ではある。しかし、印象に残りシーンだった。その映画の粗筋を話し、その曲をナギサに向かって歌いながら、砂浜を歩く。
ニュージーランドの砂浜はどこへ行っても、貸し切り、プライベートビーチ状態。