吊り橋
吊り橋を渡っているとき、下を見ることは余りお勧めできない。
ププ・スプリングスの遊歩道を歩いているとき、二人の小学生の男の子が、
「コンニチワ」
と言って、ナギサと僕の横を通り抜けて行った。
「どうして、日本語を知ってるの?」
と英語で尋ねると、学校で、色々な国の言葉での「こんにちは」を習ったという。いかにも子供らしい、好奇心の強そうな、可愛い兄弟である。
「君たち、どこから来たの?」
「オーストラリア。」
間もなく、お父さんとお母さんも追い付き、一緒に話しながら歩く。この家族は、ニュージーランドに四週間の休暇に来ているとのこと。南半球では、クリスマス前から学校は「夏休み」。しかし、その休みも一月末、つまり今週で終わることになっているという。ニュージーランドで家族連れの旅行者と何人か話したが、ほとんどの家族が、三週間、四週間という単位で休暇を取っていた。
このオーストラリア人の家族の休暇も今週でお終い。数日後にはオーストラリアに戻り、来週から学校が始まるという。
「学校が始まるの、楽しみだよね。また、お友達に会えるし。」
と僕が兄弟に水を向けると、子供たちは曖昧に笑った。正直、四週間毎日遊んだら、学校で勉強する気なくなるよね。でも、こうして、旅をすることが、彼らにとっては、学校では学べない勉強になっているような気もする。
「滝」があるとSさんに聞いていたので、その滝の近くまで車で行く。「近く」と言っても、そこから滝まで歩いて片道四十五分かかるのであるが。とても「牛口密度」の高い牧場の横を通り、森の中を歩いて滝に向かう。途中で吊り橋があった。この後、ニュージーランドで僕は何度も渓谷に架かる吊り橋を渡った。金属製のワイヤーで出来ており、人がひとり通れるだけの幅しかない、足元は網のようになっていてその隙間から谷底が見える、人が歩くと揺れる、どれもそんな橋だった。そもそも、文字通りの「吊り橋」、「ハンギング・ブリッジ」ではなく「スウィンギング・ブリッジ」、つまり「グラグラ揺れる橋」と書かれている。
長さが三十メートル、高さが十メートルほどの、その吊り橋は、同時に一人の人間しか渡ってはいけないという。それで、一人が渡り終わるまで、両側で待っている。その日も両側で五、六人の「渋滞」が出来ていた。ナギサを先に渡らせて、次に自分が渡る。僕はもともと高所恐怖症なので、下は見ないで前だけ見て渡る。しかし、足元がフワフワとして、何とも頼りない。
「ああ怖かった。目をつぶって渡った。」
とナギサが言った。吊り橋を渡って十分ほど行くと、滝があった。なかなか見ごたえのある滝。そこで、僕たちは一緒に辿り着いた人たちと、お互いに記念写真を撮り合った。
怖い目をしても見てよかったと思う、立派な滝だった。