マリンバ・バンド
なかなか圧巻だったマリンバ・バンド。楽器をローテーションして、皆が違う楽器を弾きこなす。
これで、Sさんご夫婦のものも含め、三つの有機農場を見たことになる。一口に「有機農場」と言っても、それぞれ、雰囲気、目指しているところがかなり違うと思った。しかし、共通して言えること、それは、
「この人たちは強い。」
と言うことである。食物の大部分は自給自足、またどうしても作れないものはお互いに交換ができる。仮に、貨幣が突然全く無価値になっても、生きていける人たちなのだ。
ラニの家にも、ペーターの家にも、長さの違う金属の管をぶら下げた風鈴、チャイムが掛かっていて、良い音色を出していた。ナギサがそれを買いたいというので、それを作っている女性の工房に行く。彼女は学校の前に住んでいて、学校の先生であるだけでなく、チャイムを作り、民宿をやり、アイスクリームまで売っていた。それだけではなく、彼女、ジョーのもう一つ趣味があったのだが、それが何であるかを知るには、翌日を待たねばならない。
翌日の日曜日。午前中、ナギサとモトゥエカの「サンデーマーケット」へ行く。モトゥエカは、Sさんの家から、一番近い町、車で二十分くらい。この辺りでは比較的大きな町で、スーパーマーケットも二軒ある。その日は朝から雨。雨に降られたのは、四週間でこの日だけだった。モトゥエカの街で車を停めたときに、風雨が一段と激しくなってきた。マーケットの行われる駐車場に行ってみたが、野菜を売る屋台が数軒出ているにすぎなかった。
その日の午後は、「リバーサイド・ミュージック・フェスティバル」へ行くことになっていた。「リバーサイド・コミュニティー」で毎年夏に行われる、大きな音楽祭である。この「コミュニティー」という言葉、一般的に「一緒に住んでいる人たち」という意味とは少し異なる。「ある目的を持って一緒に住んでいる人たちの集団」とでも言ったらいいだろうか。このコミュニティーの歴史、生活については、後の章に譲りたい。
リバーサイド・ミュージック・フェスティバルは午後十一時から屋外ステージで行われることになっていた。マーケットへ行ったものの、何も買えなかったナギサと僕は、帰り道、会場へ立ち寄ってみた。依然として風雨が激しい。音楽祭は野外で行われるようだ。しかし誰もいない。テントの中にいた若者に聞いてみる。
「フェスティバルはあるの?」
「あるよ。」
「でも、観客が誰もいないじゃん。」
「あんたたちが最初の客だ。」
昼から天気が回復したので、午後五時ごろに四人でリバーサイドに行ってみる。屋外ステージでの演奏がちょうど始まるところであった。最初の演奏は、地元のマリンバ・バンドであった。色々な大きさの木琴、マリンバを七、八人の男女が演奏する。大きなマリンバはバチも大きく、なかなか重労働である。その演奏者の中に、昨日会った、チャイムを作っている学校の先生、ジョーがいた。何とまあ、多才な人である。
天気が回復し、木漏れ日の中、聞いている人たちも踊り出す。