ポッサム
黄色いシーカヤックが浮かぶカイテリテリの浜。日差しと紫外線が強烈だ。
二人乗りカヤックのパートナーとして、ナギサは最低だった。横で呼吸を合わせてスイスイ漕いでいるSさんKさんご夫婦組とは対照的。
「腕が疲れた。」
と言って、最後の三十分はオールを動かさない。
ニュージーランドに着いた翌日、僕たち四人は、近くのカイテリテリという浜へ、シーカヤックをしに来ていた。二人乗りのカヌーである。カイテリテリ、変な名前だが、なかなかきれいな砂浜、海の色がエメラルドグリーンで美しい。ニュージーランド、南島の魅力は、何と言っても、海と山のコンビネーションだと思う。海と山がどちらも一級品で、これほど調和している場所は珍しいと思う。水を見たら飛び込まずにいられない僕は、一時間のシーカヤックの後、少し泳ぐ。冷たい水が肌に気持ちいい。
翌日土曜日は、ネルソンの街に朝市が出るというので四人で見に行った。滞在期間の短いナギサは早くも「お土産モード」になっている。一週間しかニュージーランドにいない彼女、しかも「お土産」が大切な習慣になっている日本人旅行者。Kさんのお勧めで、彼女は蜂蜜とセーターを買っている。蜂蜜はニュージーランドの「特産品」というわけでもないのだろうが、色々な花から取れた蜂蜜の種類の多さには驚嘆する。ナギサがお母さんとお姉さんに買ったセーターは、カシミアのように軽い。羊毛と「ポッサム」の毛の混紡だという。
ニュージーランドに居る間、ポッサムという動物の名前を何度も聞いた。増えすぎている害獣であるという。数日後、パーティーで出会ったある男性は、
「ニュージーランド七千万匹のポッサムが生息する。」
と言った。それが事実なら、旧西ドイツの人口とほぼ同じ。ニュージーランドの人口が四百五十万であるから、人間ひとりにつき十五匹のポッサムがいるということになる。このポッサムなる有袋類の小動物、作物や他の家畜たちに悪影響を与えているとのこと。しかし、それだけいるのに、僕がニュージーランドにいる時、一度も見なかった。朝の散歩のとき、車に轢かれて死んでいる動物を何度か見たが、全てウサギだった。ともかく、このポッサムの毛が役に立つとのこと。毛の中が空洞になっているので、軽くて暖かい。ナギサの買ったセーターにはこのポッサムの毛が混ざっていたのだ。
「子供たちは、パチンコや空気銃でポッサムを捕まえて、それを売りに行って、小遣い稼ぎをするんだ。」
と先の男性は言った。
ヨーロッパから来た僕にとって珍しかったのは、セミがいることだ。中部、北部ヨーロッパにセミはいない。(イタリアとギリシアにはいるが。)ニュージーランドで見たセミは、透き通った羽根で、日本のミンミンゼミに似ている。事実、ミ〜ンミ〜ンと鳴く。しかし同時に、「カチッ、カチッ」と音を出す。
「閑さや岩にしみ入る蝉の声」
という芭蕉の句があるが、セミの声と遠くのポプラの木のざわめきが、かえって辺りの静けさを強調する。
ネルソンの「サタデー・マーケット」。味噌を売っている日本人のカップルもいた。