銀河
「降るほどの星」とはこのこと。
時差ボケで夜明け前に目の覚めた僕は、庭に面したベランダから外に出てみた。空を見上げると、銀河が驚くほどくっきりと見えた。こんな「しつこいほど星の数の多い」夜空を見たのは久しぶり。前回はギリシアのクレタ島かな。残念ながら、星の数が多すぎて、しかも、南半球の見慣れない星座なので、「南十字星」がどれだか分からい。機会があれば、Sさんに聞いてみようと思う。
僕が星を眺めている横に、バンガローがある。ナギサはそこに寝ている。翌朝、
「良う眠れた?」
と起きてきたナギサに聞く。
「なかなか眠れへんかった。で、外に出てみたんやけど、星空は最高。」
とのこと。彼女も、ニュージーランドの星空に圧倒されたようだ。
ナギサと僕が着いた後、ご夫婦が敷地をざっと案内してくれた。彼らの「有機農場」プラス「B&B」は緩やかな斜面に広がっており、五ヘクタールの広さがあるとのこと。ひとつひとつの数は少ないが、驚くほど多くの種類の野菜やハーブが植えられている。羊も十数頭飼われている。「B&B」つまり民宿用の部屋はふたつあり、ひとつが母屋にある僕の使っている部屋、もうひとつがナギサの泊まっているバンガロー。「儲からない客」が客室を占領しているわけである。
星を見ていると、寒さが身に染みる。着いた日の夕方、驚いたのは、気温の低さであった。
「涼し〜、寒う〜。」
車を降りたナギサと僕は同時に言った。一月の末ということは、北半球では七月の末、一年で最も気温の高い時期である。今年は冷夏であるらしい。しかし、夜はセーターを着てちょうど良いくらい。寒がりのナギサは、重ね着をして完全に冬と同じ格好をしている。
着いた日の夕食、Kさんが鍋物をしてくれた。
「夏に鍋物も変やけど、今晩は疲れてるふたりのお腹に優しい物を、って思うて。」
とKさんは言う。しかし、ちょうど鍋物が美味しい気候。鍋物に使われた野菜の殆どを自分たちで栽培、収穫したと言う。
朝食の後、Sさんの水撒きが始まる。毎朝、一時間半くらいかけて、野菜や花に水をやるという。彼の傍で、野菜やハーブの名前を教えてもらう。野菜畑は上下に二段あり、ダイコン、ニンジン、フキ、アスパラガス、レタス、キャベツ、ハクサイ、セロリ、トマト、キュウリ、各種豆類、ピーマンと唐辛子、コンニャク芋、ジャガイモ、ネギ等の野菜が栽培されている。果物は何十本というリンゴの木の他、レモン、ナシ、各種イチゴ等、その他、ハーブはローズマリー、コリアンダー始め十種類以上。僕は四週間滞在する予定だが、その間に全ての植物の名前を覚えられるかな。
電気と電話は通じているが、水道はなく、大きなタンク二基に雨水を溜めて炊事や洗濯に使っているとのこと。庭に撒く水は、敷地を流れる小川からポンプでくみ上げている。トイレの汚水は、ミミズが分解しているとのことだった。
イチゴを収穫、ほぼ毎日結構マメに摘まねばならない。