ストレンジャーズ・ホール

 

ストレンジャーズ・ホールの大広間では宴会の準備が出来ていた。

 

城を出る。雪がこびりついている石段を、転ばないように注意して降りる。商店街に出た。クリスマスの飾りつけをしてあるアーケードを歩く。僕は人混みと買い物が、どちらかというと嫌いな人種なのだが、クリスマスの頃、飾り付けのしてある商店街を歩くのだけは嫌いではない。

「今年もクリスマス、押し迫ってきたな。」

という、何となく華やかな気分になるからだ。「マスタード・ミュージアム」なるものが商店街の中にあった。英国でよく食べられている、黄色いラベルの「コールマン」の辛子はこの町で作られているらしい。結構ツーンと良く「効く」マスタード。

マーケット広場に出る。露店と呼んでいいような小さな店が沢山並んでいる。実に様々なものを売っている。そして、どちらの方角を見ても、教会が見える。ここノリッチは、本当に教会の多い町だと思う。ヨーロッパでは普通、教会が町を歩くときの目印になるが、ここでは教会がありすぎて、それが役に立たない。

ノリコの持っている、観光案内書によると、商店街を抜けたところにチューダー調の古い家があるという。彼女はその観光案内書を、数日前に町の「ツーリスト・インフォメーション」に請求し、郵便で送ってもらっていた。だから、彼女はロンドンを出発するときに、既に今日の作戦を立てられたわけだ。この辺り、英国のインフォメーションは親切で、サービスが行き届いている。街を知ってもらいたいという意気込みを感じることができる。

目的の家はなかなか見つからない。かなり迷った末に、ようやく発見。それもそのはず、入り口は奥まっていて、表通りからは見えなかった。「ストレンジャーズ・ホール」、という名の家。昔、メイヤー、つまり市長の家だったという。

中に入る。結構広い。入ると、何枚かの肖像画が壁に掛かった大きなホールになっていて、そこに木で出来たテーブルとベンチが並んでいた。これから宴会が始まるように、食器が並べられている。他の部屋にも、子供部屋には子供用のベッドとは赤ん坊の人形が、台所には食材が、図書室には本が並んでいた。部屋の用途と当時の雰囲気が分かって良いと思う。ともかく、五百年前の、暮らし振りがよく分かる家だった。

何百年にも渡り、色々な時代に建て増しをされたので、部分部分で建築様式が違っている。僕は、ストラトフォード・アポン・エイヴォンのシェークスピアの生家を思い出した。ノリコは、職員の女性と何やら一生懸命話し込んでいる。彼女は同じく古い建物のハンプトン・コートで働いているので、きっと話が合うのだろう。

昔は、色々な国の人がこの「市長の家」を訪れたため、「ストレンジャーズ・ホール」と呼ばれるようになったとのこと。

「ストレンジャーズ・ホール」を出て、大聖堂に向かって歩く。先ほども書いたが、ノリッチの街は教会が多い。少し歩くと、石造りの教会に出くわす。ノリッチはノーフォークの「首都」であったという。そして、ノリッチは結構リッチな町でもあったのだ。

 

どちらを向いても、教会の見える町だった。