城の内部は
滑らないように転ばないように注意しながら城へ向かう。
「吹雪です。」
マコトが言った。辺りが白い。そして、地面を覆っているのは霜ではなく雪だ。十一月に雪に会うとは思ってなかった。地球の温暖化はどこへ行ったのだろう。
「雪は日常的な景色を、非日常的に見せるから好き。」
僕は言った。末娘のスミレの住む、イングランド北部は数日前から大雪。前日のメールによると、スミレは雪に降り込められているとのこと。二日前に、仕事でロンドンとダーラムとの中間のノッティンガムまで車で行ったが、寒かったけど、雪はなかったのに。
十一半過ぎ、ノリッチに着く。天気は回復し、青空が見えている。ノリッチの駅は、東京駅にちょっと似ている。道路に薄く積もった雪が融け始め、滑り易い。転ばないように注意して歩く。田舎町かと思ったが、結構若い人が多く、活気が感じられる。クリスマス前の土曜日の午前中とういうこともあるのだろうが。
まず城へ向かうことにする。城は丘の上にある。その丘全体がショッピングセンターになっている。ノリッチ城は、表面だけを残して、内部は結構近代的に立て替えられている。城はサイコロのような建物。中に入ると大きな空間だった。しかし、昔は階と部屋に区切られていたらしいが。そして、この建物長い間、刑務所として使われていた。
地下に「刑務所博物館」、「プリズン・ミュージアム」があった。昔は結構些細な罪で、死刑になったり、懲役になったようだ。そのうち刑務所が一杯になってしまったのもうなずける。その解決策として、オーストラリア流刑が始まったという。オーストラリアに昔から住んでいる白人は、囚人の子孫なんだ。
テーブルの上に「騎士」の塗り絵がある。マコトが塗り絵を始める。子供達が残していった塗り絵を見て、マコトは、
「英国の子供は、とんでもない色使いをする。」
と彼は言っている。確かにそうだ。
騎士と城を見ていると、二日前のことを思い出した。僕が、同僚とノッティンガムで訪れた顧客は、ファンタジー小説を舞台にしたゲームを作っている会社だった。コンピューターゲームではなく、実際に「人形」というか「駒」というか、「フィギュア」と呼ぶらしいが、それを動かして遊ぶゲーム。ゲームコーナーでは「オタク」風の若いお兄ちゃんたちが、畳一枚くらいある城の模型に、騎士の「フィギュア」を並べて遊んでいた。そんな中に、僕達、背広を着た三人の中年の「おっさん達」が入って行ったわけだ。実に異様な光景だった。
城の地階は博物館になっていた。その中にあるカフェテリアで昼食を取る。マコトが食べたものはキッシュ。パイの皮で入れ物を作り、そこに肉や野菜の入った「プリン状」のものが入っており、それがオーブンで焼いてある。なかなか美味そう。マコトが言った。
「これ、結構いけます。」
城の中は、壁や床が取り払われてひとつの大きな空間になっていた。