冬の遠足
古式ゆかしいセント・パンクラス駅と・・・
メールでノリコが、
「週末に休みが取れるのでどこかへ『遠足』に行かない?」
と言ってきた。彼女は今、週に四日間大学に通い、残りの三日間は働いている。つまり「休みなし」という生活、怠け者の僕には考えもつかない。彼女からお誘いがかかったのはマコトと僕。マコトは僕と同じ会社の「若い衆」だ。さて、どこに行こうかということになった。結局行き先も、英国の歴史に詳しく、将来観光ガイドを目指しているノリコに任せることになった。何回かメールが行き来した後、行き先は、ノリコがまだ行ったことがないという理由で、ノリッチに決まった。
ノリッチへの「遠足」は、列車で行くことになった。僕の車で行くことも考えたが、高速道路がないので、鉄道の方が早いのだ。しかし「遠足」なんて懐かしい言葉。何となく、ウキウキする響きを持つ。
「おやつは二百円まで。バナナはおやつに入りません。」
の決定もなされた。(これは冗談)
さて、行き先のノリッチは、ロンドンから北東に二百キロほど行ったところ。「Norwich」と書いてノリッチと読む。つまり真ん中の「W」は発音しないのだ。息子のワタルが大学に行っていた「Warwick」は、「ウァーウィック」と言いそうだが、実際は「ウォリック」と発音する。これも「W」を発音しない。この辺りならまだ納得がいくが、「Leicester」と書いて、「レスター」なんてのは、ちょっと堪忍してほしい。
ノリッチ行きの列車は、「ハリー・ポッター」ですっかり有名になった、キングス・クロス駅から出ているとのこと。列車の出発が九時十五分なので、土曜日の朝九時に、キングス・クロス駅の切符売場の前に集合することになった。年寄りの僕が早起きなのはともかく、若いふたりも結構早起きのようだ。しかし、この季節、午後三時半には夕闇が広がる。早めに行動しておくに限る。
十一月二十七日、夜が明け始めた午前八時に家を出る。寒い朝。まだ十一月なのに、イングランド北部やスコットランドからは雪の知らせが届いている。ロンドンも、今朝の気温は確実に氷点下。駅のプラットフォームを薄い霜が覆い、待っている人達の息が白い。
キングス・クロス駅とセント・パンクラス駅は通りを挟んですぐ隣にある。そして、セント・パンクラス駅までは僕の家の傍から直通の電車が出ている。しかし、その日は工事ということで、電車がセント・パンクラスまで走っていない。途中で地下鉄に乗り換える。
セント・パンクラスの駅は何時見ても立派だ。城のよう。
「駅にしておくのが惜しいなあ。」
と言ったら失礼だろうか。パリ行きの「ユーロスター」の発着駅にするために大改装が行われ、今もまだ正面玄関は工事中だ。とにかく、キングス・クロス駅周辺は、何時終わるともなく、常に工事中なのだ。
その隣のキングス・クロス駅。