雑煮とおせち料理
餅、ライス・ケークを、定規を使って一定の大きさに切る義父。
日本の大部分の家庭で、「元旦」、つまり一月一日の朝は「お雑煮」を食べます。お雑煮とは一口でいうと餅(もち)の入ったスープ。そして餅とは粘り気の多い米を蒸して、それを突いて固めた「ライス・ケーク」です。それをスープに入れると、柔らかく、非常に粘り気のある状態になります。(粘り気のある餅を喉に詰まらせて、呼吸困難になって亡くなる老人がお正月には必ず何人も出るくらい。)餅は地方により形状が違い、丸い地方と(丸餅地方)、平たくした餅を切り、正方形や、長方形にした地方(角餅地方)の二種類があります。
さて、スープの方ですが、地域によって材料や味付けが違うし、また各家庭によってさらにアレンジされるので、雑煮を食べる家庭の数だけ、味のバラエティーがあると言っても良いのではないでしょうか。一般的に、東京近辺では、透明のスープに、焼いた餅を入れて食べるようです。また私の故郷の京都では、味噌(みそ、大豆から作ったペースト)を使った濁ったスープです。父が離婚し新しい母を迎えた時、東京出身の実の母が作った透明のスープのお雑煮から、京都人の継母が作った濁ったお雑煮に変わり、驚いたことがあります。これは私にとって、かなり大きなカルチャー・ショックでした。一口で言うと、お雑煮の味は、その家庭、家系の伝統が凝縮されたものだと言ってよいでしょう。一月三日、英国の末娘から電話がありました。
「わたしたちも、お姉ちゃんのアパートで『お雑煮』を作ったよ。」
兄妹三人で雑煮を食べたそうです。どんな味だったか、そのときは聞きませんでしたが、興味があります。
お雑煮と一緒に「おせち料理」が登場すします。おせち料理というのは、お正月に食べる料理ですが、正月になる前、十二月中に前もって作っておくのが普通です。従って、保存のきく食べ物が中心になります。せっかくの休暇ですもの、誰もがゆっくりしたいですよね。主婦だってためにはノンビリしたい。そのために年末に料理を作っておいて、お正月は料理から解放されようというのが、このおせち料理の大きな意味だと思います。
おせち料理には、幾つかの定番の料理があります。例えば「鯛」、「黒豆」、「数の子」などです。面白いのは、それぞれにわざとらしく「意味付け」がしてあることです。「鯛(たい)」は「めでたい・サラブレティブ」との語呂合わせ。「黒豆(くろまめ)」は直径一センチ五ミリくらいの黒い豆を甘く煮たものですが、「まめ」には「元気で暮らす」という意味があります。「数の子」はニシンの卵ですが、無数の卵のように「子孫が増えるように」という意味があるそうです。少子化で人工の現象に悩む日本は、まさに「数の子」を食べる必要があると言えるでしょうね。
おせち料理は、たいてい「重箱」という木でできた、「漆」(ラッカー)の塗ってある四角い入れ物で供されます。日本の料理は、食べて楽しむ以前に、見て楽しむ要素がありますが、色とりどりの料理が、赤と黒の重箱の中にきれいに並べられているのは、見ていても気持ちの良いものです。今回、義母がおせち料理を作ってくれましたが、本当にカラフルでした。
おせち料理の盛り付けをする義母と妻。