やっぱり伯父さんの店

 

六つの風車に当たる夕日が美しい。この季節まだそれほど人はいない。

 

七時過ぎにペンションを出て、歩いてミコノスタウンへ向かう。天気は完全に回復、風も波も収まっていて、穏やかな夕方だ。前方に見えるミコノスタウンが、夕日に照らされてピーチ色に染まっている。

 ミコノスタウンに着いて、オールドポートを歩いていると、いました、ペリカンが。てっきり野生だと思っていたのに、お供の男性を引き連れて行進している。観光客がその周りに集まって、写真を撮っていた。最後の夜に、僕達はやっと「ミコノス名物」を見ることができたわけだ。

 日没を見るために、「六つの風車の丘」に登る。下に見えるリトル・ヴェニスには、朝と打って変わった穏やかな波が打ち寄せている。二百人くらいの人が、夕日を見るために丘に登っている。サントリーニ島の夕日の名所、イアを思い出す。ハイシーズンには、おそらくこれが何千人にも膨れ上がるのに違いない。先の憂いなく、写真が撮れるぞと意気込んでいたら、バッテリー切れで、カメラが停止。あらら、ガックリ。太陽は一度雲に隠れ、再び現れ、水平線に沈んだ。夕日に照らされた風車は美しい。来た甲斐があった。

 太陽が沈むと急に涼しい風が吹き始める。妻と僕は、街中のレストランを物色しはじめた。しかし、全てが高い。単品で三十ユーロなんていうのがざら。三十ユーロあれば、ペンションの三軒隣のタヴェルナで、ふたりでたらふく食って、ワインまで飲める。

「やっぱり伯父さんの店にしようか。」

と僕が聞くと、マユミもそうしようと言う。僕達は、タクシーに乗り込み、七分二十三秒後にはペンションの前に居た。カメラのバッテリーをチャージャーの中に入れ、三軒隣のタヴェルナに着いたのが九時前。

 マユミは第一日目と同じ「イカの姿焼き」を注文した。食事の途中、僕はチャージされたカメラのバッテリーと醤油を取りに部屋に戻る。食事が終わって、お勘定を頼むと、店の親爺さんが、

「また明日ね。」

とギリシア語で言った。明日は「アブリオ」だ。

「残念ながら、『アブリオ』は来られない。明日ロンドンに戻るんだ。」

と僕が言うと、

「じゃあ、また来年だな。」

と店主は言った。彼と記念撮影をして店を出る。

 外へ出ると辺りはすっかり暗くなり、雨上がりの空に星が美しい。マユミがアイスクリームを買って食べている間、僕は星を見ていた。今日は、かなり飲んだのだが、全然酔わない。部屋に戻り、本を読みながら、十一時ごろに眠る。

 

僕のギリシア語の先生だった「伯父さんのタヴェルナ」のご主人を囲んで。

 

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