口の肥えた猫
僕達の住んでいたアギオス・ステファノスの道路標識。
夜中に目が覚め、二時間くらい起きていたが、明け方にまた眠って、六時半ごろに起きだす。今日はロンドンへ戻る日。曇り空だが、もう帰ると思うと、昨日までほど天気は気にならない。またまた「パパとママ」のテラスで、ギリシア語の勉強。ちょうどギリシアを去る日に、ギリシア語の教科書を最終章までやり終えた。満足感。もちろん、もう一度最初から繰り返さなければいけないが、最後まで行ったことを、先ずは素直に喜ぼう。
マユミも珍しく早めに起きてきた。ふたりで荷造りをする。それほど荷物もないので、三十分くらいで終わる。昨日土産にワインを二本買った、この島の「涼しい味」の白ワインと、サントリーニ産の甘いやつ。二本をタオルや衣類でグルグル巻きにして、スーツケースの中に入れる。
マユミがこの旅行で使った金の計算をしている。これはソロバンの先生に任せておくに限る。計算が終る。飛行機代、宿代、食事、全部入れて千ポンド(十四万円)弱だという。
「ふたりが、飛行機に片道三時間半乗って、一週間過ごして、毎日美味いものを食って、まあまあの金額でしょう。」
というのがふたりの評価。
例の猫が、部屋にやって来る。今日は残念ながら魚がない。それでパンをちぎってやる。でも猫は匂いを嗅ぐだけで、食べようとしない。最初の日はパンを喜んで食べていたのに。
妻:「口が肥えたのね。」
僕:「それ、舌が肥えたと言うんじゃない。」
どっちだったっけ。いずれにせよ、
「美味い物を食った後は、不味い物は断固食いたくありません。」
という猫の気持ち、良く分かる。
飛行機の出発は午後二時。クリスティーナが十一時半に、僕達を空港まで車で送ってくれることになっていた。まだまだ時間があるので、ニューポートへ船を見に行くことにした。外へ出て気付いたのだが、ニューポートには今、客船も、フェリーも、大きな船は一隻も泊まっていない。漁船とクルーザーとヨットだけ。これまで入れ代わり立ち代わり大きな船が入ってきていたのに。今日に限ってどうしたのかな。
港では漁船の中で、漁師が網の手入れをしている、白いヨットやクルーザーがずらりと並んでいる。きっと、このミコノス島を訪れる「お金持ち」の持ち物なのだろう。客船の着く桟橋は恐ろしく長い。全長二百メートル以上あり、何万トンという船が着くのだから当然だ。僕は会社の研修で覚えた(運送会社なもので)、
「船には重量トンと排水トンのふたつがある。」
という話をマユミにするが、彼女は、
「それがどうしたの?」
と言う感じで、全然興味がなさそう。
ニューポート、今日は大きな船はいなくて、漁師が網の手入れをしているばかり。