絵を描く人の目つき

 

クロワッサンを食べながら街を歩くマユミ。

 

街中に、水彩画を並べている小さな画廊があった。どれも皆同じ画家の手によるものであることは署名を見なくても明らか。海底の石が差し込んだ日光に輝いている絵が、なかなか素敵。ギリシア語の署名を見ると、「ザカス」と読める。店のおばさんが出てきて、

「あんたも絵を描くんでしょ。」

と英語で言った。

「うん、でもどうして分かったの?」

「絵を描く人は、独特の目つきで他人の絵を見るから。」

なかなか、観察眼の鋭いおばさんだ。絵は結局買わなかった。まあ、あの程度のものなら、時間をかければ自分だって描ける。

「ロンドンに帰ったら、あんな絵を描いてね。」

と妻が言った。 

「よっしゃ、まかしとき。」

田中角栄のような返事をする。しかし、何時になることやら。

 オールドポートには、海に面して、カフェとレストランが並んでいる。僕達はまだそこに座ったことがなかった。

「飲み物だけでもいい?」

と、一軒のレストランでお姉さんに聞く。いいということなので、最前列に座る。ギリシア語でフラッペと、エスプレッソを注文した(つもり)。しかし、実際はマユミのフラッペしか来なかったので、通じていなかった。マユミに改めて、英語でエスプレッソを注文してもらう。久しぶりに飲むコーヒーが美味い。太陽が強くて、道行く女性のスカートが透けて見える。これもなかなか良いもの。

僕はいつもニコンのカメラを持ち歩いているが、今回は、撮った写真を保存するパソコンも、予備のメモリーカードも持ってこなかった。それで、現在カメラに入っているメモリーカードが一杯になるとお終い、もう撮れなくなる。このカード、千枚まで撮れるのだが、最初の数日は、

「ああ、もう後八百五十枚しか撮れない。」

などと心配して、マユミに笑われた。現在カメラを見ると、まだ二百五十枚は撮れる。ミコノスに居るのもあと一日。これからは、思う存分、バシバシ写真が撮れるというものだ。

 十二時半ごろ、アギオス・ステファノスへ向かって歩き出す。相変わらず風が強く、波が防波堤に当たり、飛沫を上げている。沖には白波が立ち、船も波を蹴立てて進んでいる。結構揺れているのだろう。

 ペンションに戻る、今日は、夜外出することになっているので、昼間ではあるが、ビールを一缶飲んで、その勢いで少し昼寝をすることにする。マユミとふたり、少しウトウトした。彼女は毎日十時間夜眠り、まだ昼寝が出来る。これは凄い。

 

海辺のカフェに座って、エスプレッソを注文したけど、来なかった。

 

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