気さくな修道僧
修道院のチャペルの中。本当はもっと暗い感じ。
アノ・メーラは、はっきり言って何もない村。村の真ん中に広場があり、その横に修道院があるだけ。村を一回りするのに二分二十七秒くらいしかかからない。
友人:「モトさん、明日何時に会いましょうか。」
僕:「六時四十七分に、ピカデリーサーカスのエロスの像の前で。」
半端な時間を言うのが僕の趣味なのだ。
タヴェルナとカフェに囲まれた広場を横切り、まずは修道院に行ってみる。ここがこの村の「名所」らしい。僕達数人の観光客が修道院の前に発つと、僕達を待っていたように、黒い僧服を着て、黒い帽子を被り、白い髭を生やした老人が現れた。天草に住んでいる友人のトケシ教授は、二十年後にはきっとこんな顔になるのだなと思った。
僕:「お坊さんが来はった。」
妻:「そう。」
なかなか良い反応。
その修道僧が中庭の正面にある入り口の鍵を開けてくれた。中は礼拝堂。修道院のチャペルの中は、思っていた以上に良かった。壁に掛かっている沢山のイコンもそれぞれ独特の味わいがある。シャンデリアや装飾品も手が込んでいる。そして、それらが、薄暗く、涼しく、黴と線香とロウソクの匂いの混ざった空気の中に、渾然と存在するのが良い。外の青い空と、白い壁と、強烈な太陽とはまったく別の空間がそこにはあった。
修道院の中庭の日陰で、鍵を開けてくれた修道僧と「話す」。何せ、彼はギリシア語しか話さないし、こちらは挨拶程度のギリシア語しか話せない。会話にならないが、マユミはそれでも手振り身振りでコミュニケーションを取っていた。結構気さくな僧だった。
僕達と一緒にドイツ人の夫婦も修道院を見学していたが、そのご主人が、修道院の中庭にある木を見て、この木の果実は食べられると言う。彼はその木の名前も言ったのだが、残念ながら忘れてしまった。黄緑色のラズベリーのような果実は、確かに甘くて美味しかった。その木の名前は聖書にも出てくるとのこと。
修道院を出る。帰りのバスの時間が分からないので、予定が立たないのだが、誰かが四時ごろと言ったのを信じて、もう少し歩いてみることにする。丘の上に風車があったので、そこまで行く。風車は当然「風当たりの強い」場所、つまり高いところにある。だから、そこからの眺めは最高。島の全部が見渡せる。マユミと僕は、そこで昼食、パンにチーズとサラミをはさんで食べた。
昼食の後、マユミは辺りの「探索」に行き、僕は風車の壁にもたれて日光浴をしながらウトウトする。ここでも風車の藁屋根に雀が巣を作っているらしく、ピーチクパーチクという声が聞こえてくる。涼しい風が吹き抜ける。時々猫が現れ、石の間からトカゲが姿を見せる。下に学校があるらしく、バスケットコートが見え、そこから子供達の喚声が聞こえてくる。僕は時間が止まったような長閑な午後を楽しんだ。
修道僧との「対話」を楽しむマユミ。「チェルシーって知ってる?」