値切り交渉

 

朝獲れたばかりの魚が並ぶ魚市場。まだ生きていて、跳ねている魚もいる。

 

五月十四日。五時半ごろに起き出して、ベランダに出てみる。波の音が聞こえてくる。ベランダでしばらくギリシア語の勉強をする。

八時にマユミ起こす。彼女は毎日十時間眠っている。本当にそれだけ眠れる彼女がうらやましい。今晩寝る前に妻の「爪の垢」をもらって、睡眠薬代わりに飲もうかと思う。

八時十五分にアパートを出てミコノスタウンに向かって歩き出す。目的はオールドポートの魚市場。今日から台所のある部屋に入れるので、朝に新鮮な魚を買っておいて、夕方、刺身にして食べようという魂胆。途中、ニューポートの横を通る。昨日、ギンギンにライトを点けて、ドンチャンと音楽を鳴らしていた客船は、夜のうちに出航したらしく、もういなかった。

九時にオールドポートに着き、魚市場で二十五センチくらいのクロダイを買う。立派な鯛だが、二十ユーロ、三千円と結構高い。

「もっと、値切ればいいのに。」

とマユミは言うが、僕は昔からどうも値段の交渉は苦手。言い値でそのまま払ってしまうタチなのだ。マユミはインド旅行中、値切りまくってきたという。インドでは交渉すると何でも半値以下になり、言い値で買う者は馬鹿とのことだ。明日から魚を買うのは妻に任せようと思う。

魚は思いのほか高かったが、その代わり、ライトバンで商売をしているおじさんから買った野菜は安かった。ナス、トマト、インゲンなど袋にいっぱい買って、たったの二ユーロ。

魚市場というと、何となく、「築地」のように大規模なものを想像されるかも知れないが、港の一角に作られたコンクリートの台に屋根だけついた場所。何となく小学校の大運動会の本部席を思い浮かべる。

ペンションまでまた二キロ半の道を歩いて帰り、マユミがベランダで朝食を取っている間に、シャワー室で、クロダイの鱗と内臓を取る。終わってから飛び散った鱗など、きれいに掃除したつもりなのだが、まだ何だか生臭い。

「やっぱ、シャワー室で魚を捌くのはまずかったかな。」

シャワー室の窓とドアを開けっぱなしにしておいて、午後までに匂いが消えるのを期待。

今日は部屋を変わらなければならないので、マユミの朝食後、荷造りをする。朝も早かったし、朝から五キロ歩いたので、僕はそれからしばらくベッドで横になりウトウトしていた。開いているドアの隙間から昨日の猫が入ってきて、僕の腹の上に上半身を乗せ、やはりウトウトしている、

十二時になり、掃除のおばさんがやってきた。荷物を「パパとママ」の部屋に移す。その日は島の真ん中にある、アノ・メーラという村にバスで行くことになっていた。ミコノスタウンから午後一時にバスが出るということなので、十二時十五分にペンションを出る。

 

ライトバンを並べ、野菜を売る人々。驚くほど安い。

 

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