リトル・ヴェニスと小京都

 

ミコノスタウンのオールドポート。後方の船のロープには蛸が干してあった。

 

街外れに六つ風車のある丘があるというので、海岸に沿ってそちらに向かって歩く。途中「リトル・ヴェニス」という場所を通る。海に面して、と言うか、海から直接カフェやタヴェルナが立っていて、お客は足元に海を見ながら寛げるという次第。全長五十メートルくらいの小さな場所だ。

「でも、『リトル・ヴェニス』って他でも聞いたことがあるわ。」

と妻。

「おそらく、海と川と建物が近くて、ちょっとでも雰囲気が似てたら、すぐ『ヴェニス』って名付けてしまうんやろうね。例えば、日本には『小京都』と呼ばれる場所が沢山ある。きっと、それと同じやろうね。」

とコメントしておく。

京都で生まれ育った僕なのだが、実際に幾つか「小京都」と呼ばれる場所を訪れ、笑ってしまったことがあった。全然似ていなかったのだ。今日、ミコノスタウンのリトル・ヴェニスを訪れている人の中にも、実はイタリアの「元祖」ヴェニスの出身者が何人かいて、オリジナルとの余りの違いに、苦笑しているかも知れない。

 「六つの風車の丘」に着く。これがミコノスタウンのシンボルらしい。一列に並んだ円筒形の風車は円錐形の藁で出来た屋根が付いている。その藁屋根に鳥達が巣を作り、ピーチクパーチクと賑やかな、「雀のお宿」的な雰囲気になっている。丘から見る海と近くの島々の眺めは最高。

 ミコノスタウンの路地を通り抜ける。本当に迷路のようで、地元民でも完全に道を覚えている人は少ないとのこと。途中、公衆便所があったので用を足しに入る。

「ギリシアの便所は日本の便所と似ている!」

つまり、座ってではなくしゃがんで用を足すのだ。しかし、いわゆる「金閣寺」、いや違った、(京都の話をしていたら間違った)「金隠し」はなく、四角い陶器で出来た平たい便器に、ポツンと穴が開いているだけ。その穴に狙いをつけてウンコをポチャンと落とすわけだ。便所から出てしばらく行ってから、僕は、

「そうだ、便所の写真を撮っておくんやった。」

と気が付いた。しかし、何せ迷路の中。もうあの場所には戻れそうな気がしない。

 ミコノスタウンの白い建物は、太陽が低くなり、夕日が建物の壁に当ると、一段と輝きを増した。

 六時前、ペンションまで、また四十分ほどかけて歩いて帰る。それほど汗をかいたつもりはないのだが、部屋の鏡で顔を見ると、塩が薄っすらと浮かんでいる。すぐ乾くのでそれほど気がつかないが、結構汗をかいているのだ。シャワーを浴び、冷たい「ミュトスビール」を飲む。クレタ島、サントリーニ島以来、このミュトスビールはもはや、僕にとってホリデーの伝説的、神話的な存在となっている。(「ミュトス」というのは「神話」という意味。)

 

これが、ギリシア式のトイレ。トルコやイランも同じ方式らしい。

 

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