イカの姿焼き

 

レストランの窓から見えた夕日。

 

さて、ミコノス島最初の夕食。クリスティーナの伯父さんが、ペンションの三軒隣でタヴェルナをやっているというので、今日はそこへ行くことにする。

 午後七時半、食堂はまだ空いていた。ギリシア人の食事は、シエスタ(昼寝)の時間があるから、結構遅いのだ。窓から見える夕日が美しい。窓際のテーブルについて、赤ワイン、フェタチーズの入ったギリシア風サラダに続き、マユミはイカ、僕は「ムサカ」を注文する。

ムサカは典型的なギリシア料理、ラザニアのナス版というところか。薄切りのナスとひき肉が層をなしており、上からチーズで蓋をし、コンガリとオーブンで焼いてある。

マユミの注文したイカは、立派なもの。三十センチほどのイカを、頭の先からゲソまでこれもコンガリ焼いて、輪切りにしてある。こんな大きなイカが一匹丸々料理してあるのを見るのは、ヨーロッパでは初めて。ワインも美味しく、なかなか満足のいく夕食であった。値段は三十五ユーロ、四千円程度。そんなに高くない。店を出るとき、店のご主人が、

「ギリシア語で『グッド・ナイト』は『カリニヒタ・サス』だからね。」

と教えてくれた。

「カリニヒタ・サス!」

早速そう言って店を出る。

夕食後、ペンションに戻る。バルコニーから「パパとママ」の部屋を覗くと、クリスティーナと義父母がトランプをしていた。僕たちに気が付いた「パパ」が、クリスティーナに何かギリシア語で囁いている。

「アイスクリームを食べない?ってパパが聞いてるけど。」

クリスティーナがドイツ語で言った。

「アイスクリームはギリシア語で『パゴト』だよね。」

と僕が言うと。「パパ」が、

「パゴ!」

と発音を直してくれた。ふたりでアイスをご馳走になる。

クリスティーナに、台所の付いた部屋が欲しい旨を伝えると、今はあいにく全部ふさがっているとのこと。ひとつでも空き次第、部屋を代えてもらうということになった。

「日本人は米の飯を食わないといられない民族なの。」

とその理由を説明する。

「ご飯だけなら、私のキッチンで炊いてもいいわよ。」

とクリスティーナは言ってくれた。「パパとママ」の部屋を辞す。皆に「お休み」を言う。

「カリニヒタ・サス!」

自分達の部屋に戻ると九時半。英国ではまだ七時半だが、朝早かったのと、良く歩いたのと、満腹なのとで、僕達は、バタンキュー状態で眠ってしまった。

 

立派なイカ。どこから片付けようかと思案するマユミ。

 

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