休暇への気合

 

六時前と言うのに、イージージェットのチェックインの前には長い列が。

 

同僚のアニルも火山灰による足止めを食った中の一人。彼はインド人なのだが、先月亡くなったお母さんを火葬にした灰を、ガンジス河まで撒きに行き、帰りの飛行機が飛ばず、予定より八日遅れて帰国した。帰国後、有給休暇が一度に減ったと、ブツクサ言っていた。

数日前、彼と一緒に車で帰る際、その旅の話を聞いた。ガンジス河はヒマラヤ山脈から流れ出しており、水はとても冷たく、急流で、河に落ちたらまず助からないそうだ。インド人である彼にとっても、インドはとにかく暑くて、バテたと言っていた。

僕:「ヒンズー教徒は、生物には輪廻があるって信じていると聞いたけど、それ本当?」

アニル:「本当だ。この世での行いが良いと、来世、また人間に生まれてこられるけど、行いが悪いと、次は蝿や蚊やゴキブリになっちゃう。」

僕:「と言うことは、君や僕は、前世でとっても行いが良かったんだね。こうして、人間に生まれてこられたんだもの。」

アニル:「そういうことになるね。」

 車のラジオからニュースが流れ、デイヴィッド・キャメロンがエリザベス女王から首班に指名されたことを伝えている。一週間前、英国では総選挙があり、労働党、保守党、自民党の三党とも過半数に達しない「ハング・パーラメント」(宙ぶらりんの内閣)状態の結果が出ていた。結局、保守党と自民党が連立内閣を組むことで話がまとまり、保守党の党首、キャメロン氏が首相となることになったようだ。今回、三党の党首による「ディベート」(討論)が初めてテレビで放映されたが、なかなか面白く、投票権のない僕だが、三回ともかなり熱心に見ていた。

 午前五時半、予約しておいたガトウィック空港の「ロング・ターム(長期)駐車場」に到着。車を停め、キーを渡し、ターミナル行きのバスに乗り込む。

英国人という人種は、ホリデーに行く時、随分「気合」が入っている。すなわち、家を出る時から、休暇先で通用する格好をしてくるのだ。例えば、一週間ギリシアの島に行く際に、Tシャツと、ショーツとサンダルで家を出てくる人が結構多い。バスに乗り込んで来た人の中にも居ましたよ、そんな人が。ある兄ちゃんはTシャツ一枚とショーツ。しかし、外の気温は先ほども述べたように零度。寒いでしょうに。しかし、本当にその「気合」、あるいは「根性」には感心するばかり。

今回のミコノス島行きには「イージージェット」という航空会社を使った。イージージェットは「バジェット・エアライン」(格安航空会社)の草分けで、今回の切符も、往復で一人百ポンド、一万四千円。片道三時間半の旅であることを考えると、随分安い。もちろん、機内では、飲み物食べ物のサービスは一切ない。妻のマユミは昨夜握り飯を作り、リュックサックの中に入れてきている。

朝の六時前というのに、イージージェットのカウンターには百人以上の人が並んでいる。僕達もチェックインを済ませ、ロビーで握り飯を食いながら出発を待った。

 

風車はエーゲ海の島のシンボル。今は使われていないが。

 

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