デジャヴ
僕がデジャヴを起こした、ミコノス島のクリスティーナのペンション。
「マンマ・ミーア」には、僕なりに思い入れがある。その理由は、舞台がギリシアのエーゲ海に浮かぶ島であるからだ。妻と僕は、エーゲ海の島々に魅せられ、何度もギリシアを訪れている。最大の魅力は「海の色」、その色は写真を撮っても、どのような言葉を費やしても、他人に伝えるのは難しい。
「マンマ・ミーア」は二〇〇八年に、メリル・ストリープの主演で映画化されている。その映画を見ていただくと分かるが、エーゲ海の島々の景色とその魅力が、かなり忠実に伝わってくると思う。月光に浮かぶ白い建物も美しいし、結婚式の行われる教会、島の丘の上にあるのだが、その下にある白い岩と緑の松の木、紺碧の海のコントラストが美しい。
今年ミコノス島を訪れたとき、クリスティーナという女性が経営するペンションに泊まった。
「あれっ、ここ一度来たことがあるような気がする。」
僕は最初そのペンションの前に立ったとき感じた。良く考えると、ペンションの作りが、「マンマ・ミーア」の映画の中で、メリル・ストリープが演じる主人公、ドナの経営するホテルに実に似ていたのだ。それが「デジャヴ」の原因だった。
後で知ったのだが、映画のドナのホテルのシーンの大部分は、ロンドンにあるスタジオのセットで撮影されたものだという。何となく興ざめ。
「知らないでおいたほうが良い事実であるもんだ。」
僕はそれを知ったとき呟いた。
ともかく、十一月のある水曜日、僕は「マンマ・ミーア」を見に行くことにした。その日は昼から仕事が休みだったので、昼にプールへ行き、二キロほどゆっくり泳いだ後、家に帰り、昼食にビールを飲んだ。その勢いで、午後二時から四時までかなりグッスリと眠った。ミュージカルを見ていると、夜が遅くなるので、少し眠っておいたほうが、後々楽だろうと思ったからだ。
午後五時に家を出て、最寄の地下鉄駅まで車で行き、駅前に車を停めて、地下鉄に乗る。雨が降り始めている。例によってレスター・スクエアで地下鉄を降り、繁華街を歩く。駅で無料の新聞、「イブニング・スタンダード」を配っている。それを受け取る。
新聞の紙面の半分は、昨日発表された、ウイリアム王子とケイト・ミドルトンの結婚についてだ。今朝はどの新聞も、その記事で埋まっている。もらった新聞を見ると、ケイト・ミドルトンの写真が並んでいる。その中に、彼女が下着の完全に透けて見える、シースルーのドレスを着た写真も載っていた。日本と違うなあ、と僕は呟く。この辺り、日本と英国では皇室に対する報道の仕方が完全に違う。英国では皇室も一種の「芸能人」、あるいは俗に言う「セレブ」の一員なのだ。
僕は新聞の将来の「プリンセス・オブ・ウェールズ」(皇太子妃)の写真を眺めながら、小雨の中「プリンス・オブ・ウェールズ劇場」へと向かった。