パエリアの作り方
スーパーマーケットで売られているブタの腿。一本二千五百円。安い。
これまで、主にマヨルカ島の名所について書いてきた。ここからはしばらくマヨルカ島の食べ物につてページを割いてみたい。スペイン料理と言えば、やはり「生ハム」、「パエリア」、「タパス」であろうか。
まず生ハム。スーパーマーケットでも肉屋でも、ブタの腿がずらりと釣ってある。これが生ハム。結構粘っこいので、向こうが透けて見えるくらい薄く切って食べる。太い腿から一体生ハムの薄切りが何百枚と取れるのだろうか。しかも一本二千円前後。これはメチャ安い。荷物の重量制限がなければ買って帰っていたと思う。マヨルカの県庁所在地はパルマ。「パルマハム」の発祥地かと誤解しやすいが、「パルマハム」の「ル」は「R」でマヨルカの町は「L」である。パルマハムはイタリアのパルマ地方の特産だ。
薄切りの生ハム、これが熱いご飯に良く合う。生ハムと海苔でご飯をくるりと巻いて、醤油を数滴垂らして食べるのを僕は好き。朝食に最高。
次にパエリア。魚のスープで炊き込んだご飯である。アルクディア港のレストランで食べた。観光客向けの何百人も入れる派手派手しいレストランから離れた、ちょっと場末の二十人も入れば一杯になるような店だった。玄関で親爺さんに呼び止められて入ったのだが、気の良い親爺さんで、パエリアを作る過程を見せてくれた。
先ず、材料を載せた皿をコックのお兄ちゃん、セバスティアンが持って来て見せてくれる。イカの切り身が大量に入っている。その他はマッシュルーム、赤ピーマン、緑の香味野菜、海老などが皿に乗っていた。次に、僕達は厨房に案内された。セバスティアンはそれらを直径四十センチ以上の薄いフライパンに入れて炒める。炒め終わったところで、隣の大鍋の中の魚のスープをかける。スープの中には様々な魚がグツグツと煮えていて、サフランが入っているので黄色をしている。
「あんた、試しにやってみな。」
と言われて、マユミがお玉でスープをすくってフライパンに注いでいる。その中に生の米を入れて、蓋をして炊くのである。従って、パエリアは客の注文で一から作ると、最低でも三十分はかかる。その間、白ワインを飲み、親爺さんの家で採れたというオリーブをつまむ。白ワインは、あっさりして、飲みやすい。とにかく、抵抗なく喉を通る。オリーブはハーブと一緒に漬けてあって、苦い味がするが、それがまたワインに良く合う。
待つこと三十分。セバスティアンがまず小さな木のテーブルを僕達のテーブルの横に置き、その上に出来上がったパエリアのフライパンを乗せる。
「おいしそう。」
セバスティアンが皿にパエリアを盛ってくれる。魚のスープから出た味は極めて濃厚、ご飯はおこげが美味しい。イカがコリコリと絶妙の歯応えを感じさせる。
食べ終わった後、親爺さんのおごりで、甘い食後酒を飲む。小さなガラス製の猪口に入れて、一気に飲み干す。なかなか得難い体験をした一夜であった。
自分で食べるパエリアに、スープをかけているマユミ。