鍾乳洞
これがヨーロッパ一、二十二メートルの石筍。単純に計算して二十二万年かかったことになる。
カラ・ラハーダから一番近い「アルタ鍾乳洞」に着く。そこは国道の終点で、切り立った断崖の中腹に入り口があった。入場券を買うがすぐには入れない。三十分に一度、ガイドが連れて行ってくれるらしい。一時半になり、待っていた二十人ほどの人達と一緒に中に入る。客の半分以上がドイツ語を話し、数人が英語を話している。
ガイドのお兄ちゃんが、皆に何語を話すかと聞いている。
「俺、ドイツ語は得意だけど、英語は余り得意じゃないんだよね。でもやってみる。」
と彼は言った。ガイドで英語が苦手?!それで商売ができてしまうところが、いかにもマヨルカ島らしい。
鍾乳洞の中は思った以上に興味深いものだった。最低限の照明しかしてないところが良い。無数の巨大なツララの中に迷い込んだようなもの。上から伸びてくるのが鍾乳石、下から生えてくるのが石筍。この鍾乳洞では、一センチ伸びるのに百年かかるという。この鍾乳洞にはヨーロッパで一番高いというが石筍があり、それが二十二メートル。
「百年で一センチ、千年で十センチ、一万年で一メートル、十万年で十メートル・・・」
と数えて行くと、とてつもない時間がかかってここまで成長したことが分かる。ピラミッドが作られエジプトに文明が始まってから今日までに、一メートルも伸びていないのだ。人間の寿命や想像を超えた自然のサイクルの長さに、改めて驚嘆させられる。石筍は大きなクラゲの大群のようにも見える。
アルタ鍾乳洞からアルクディアに帰るとき、ヒッチハイクの若い男女を乗せてあげる。イタリア人の男性とポーランド人の女性、「ドイツ人の巣窟」、カラ・ラハーダのレストランの厨房で働いているという。
「僕、ドイツ語が分からないから、あのドイツの『植民地』ではちょっと居心地が悪い。」
と男の子が言った。そして、
「今日は休みだから、アルクディアの海岸に遊びに行くんだ。でも、金がないからヒッチハイクで。」
と彼は続けた。話を聞くと、彼等はポーランドからローマまで二週間かかってヒッチハイクで移動したこともあるという。
「それって、金の問題ではなく、あなたたちの『趣味』でしょ。」
ふたりを海岸で降ろして、アパートに戻る。今日で、レンタカーを借りるのもお終い。夕方に車を帰す。傷のチェックやガソリンの残量チェックもなし。鍵をホテルのフロントに返すだけ。最後までおおざっば。
明日は近くの海岸で、ゴロゴロゆっくりしようと思う。しかし、車のある五日間、ずいぶんと色々なところを回った。やはり日本人、貧乏性なのだろうか。
「がっぱになってあちこち行ったね。」
と妻に言う。「がっぱになって」というのは、金沢弁で「むきになって」ということだ。
後ろの石筍、クラゲの大群に似ていると思いません?