お前、なめとんのか
灯台の周辺に広がる塩田。ピンク色をした塩水が溜まっている。
さて、バナナに続く、ラ・パルマ島名物は何か。島はカナリア諸島の主な七つの島の中でも一番西に位置し、偏西風の影響で雨が多く、緑に覆われた島であるとのこと。他の島々に比べると、農業が盛んとのこと。バナナの他にブドウや煙草が栽培されており、ワインや葉巻も名産品とのことである。
ホテルから見える斜面に「ブドウ畑」があるという。
「えっ、ここがブドウ畑なの?」
すぐには分からない。ドイツやフランスのブドウ畑には、棚が作られており、その棚にブドウの木が絡まりついている。一目瞭然。しかし、ギリシアやスペインでは、ブドウの木が直接地面から生えている。木の高さもせいぜい五十センチくらい。だから、葉の出ていない冬の間にブドウ畑を見ると、地面に近い所に黒い枝が貼り付いた、単なる斜面にしか見えない。マゾという町で買ってきたワインを英国に戻ってから飲んだ。少し北にあるマデイラ島で採れる「マデイラ・ワイン」がトロリとした濃厚な味なので、それを期待して飲んでみる。
「わあ、メチャすっきり。」
たまたまそんなワインに出会ったのかも知れないが、喉越しが良くてそれなりに美味しかった。また、島で採れた煙草の葉で作った葉巻は、有名なキューバ産に匹敵するくらいの高品質なのだそうだ。でも、煙草を吸わない僕にとっては確かめようがない。
また、塩も名産とのこと。着いた翌日、島の一番南の先端の「フェンカリエンテ灯台」へ行った。灯台の周囲に、棚田のように斜面に何十という池が作られている。塩田なのだ。海水を汲み上げて、それを段々と下の池に流し、その間に水分を蒸発させるという仕組みらしい。池の縁には、塩分が結晶になっており、中の濃い塩水は何故かピンク色をしている。池の中の塩水を舐めてみたいと思うのが人情というもの。僕は池に降りて行って、池の水に人差指をつけて舐めてみた。塩辛いというより苦みが先に立つ。見上げると、パンチパーマのお兄さんが立っている。
「お前、なめとんのか。」
これは冗談。
もうひとつの島の名物は、美しい星空。星空を見上げながら僕は妻に行った。
「太陽の光が地球に到達するまでの時間が八分。」
「ふうん。」
「その光のスピードをもってしても、太陽系の外の一番近い星まで到達するのに四年かかるんや。」
「ふうん。」
「いかに太陽系の外にとてつもない空間が広がっているのが分かるやろ。」
「ふうん。」
彼女には宇宙の広さが本当に分かったのだろうか。
太陽が沈んで、宵の明星が輝きだす。星の奏でるシンフォニーの序章である。